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俺は部屋を飛び出して居間に出ると、キャベツを細かく切り刻む妻に尋ねた。
「プラモデル、知らない?
確か、俺の部屋の床に置いてあったはずなんだけど。
ボディが真っ赤で……」
彼女は包丁を動かす手を止め、僅かに視線を上げた。
「あぁ……あれ、大事な物だったの?
お昼に掃除したとき、ゴミだと思って捨てちゃった」
愕然とする俺を、妻は不思議そうな目で苦笑いする。
「どうせおもちゃなんだから、また買えばいいでしょ。
むしろ部屋が綺麗になったことにお礼を言ってほしいくらい」
物に対する価値観を一方的に押し付けてくる女性だったのか。
それのみか、持ち主に確認も取らず、廃棄処分に至るだなんて。
独り善がりにも程がある。
俺の右手が怒気を帯びて震え出した。
「ほら、まだスーツも脱いでないの? 木刀なんか持ち出して」
感撃丸を握る拳が固く締め上がる。
駄目だ。俺は何をしようとしているんだ。
腹を立てた勢いで人を殴るなど、到底許される行為ではない。
ところが、自制心とは真逆に、木刀は俺の頭上に掲げられた。
身体が勝手に動く。まさにその言葉通りだった。
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