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気が付いたときには、妻が目の前に突っ伏していた。
「そ、そんな……」
状況から判断するに、木刀を腹部に当ててしまったようだ。
自分の行動が招いた結果であるのに、どうしてもそれを受け入れられない。
胃から訳の分からないものがせり上がる。
混乱で吐き出していいのかさえ迷っていた俺の脳へは、
乾いた声が矢庭に直接語り掛けてきた。
『心配無用。その女子は余が斬った。峯打ち故、命に別状はない』
声の主を探して辺りを見回すも、この場に立ち尽くしているのは俺一人。
厳かな低音はさらに脳内に響き渡る。
『失敬、名乗るのが遅れたな。人は余を”感撃丸”と呼ぶ」
まさか……木刀が喋った?
『其方の精神が参っていたおかげで、容易く意識に入り込むことができた。
余が其方の身体を乗っ取り、有難迷惑を成敗したまでだ』
自分の責任が十割でないことが分かったと言えど、
罪悪感はまるで取り除かれない。
信じ難い出来事の連続に、俺はふらつく脚を支えておくのがやっとであった。
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