4/6
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 気が付いたときには、妻が目の前に突っ伏していた。 「そ、そんな……」 状況から判断するに、木刀を腹部に当ててしまったようだ。 自分の行動が招いた結果であるのに、どうしてもそれを受け入れられない。 胃から訳の分からないものがせり上がる。 混乱で吐き出していいのかさえ迷っていた俺の脳へは、 乾いた声が矢庭に直接語り掛けてきた。 『心配無用。その女子(おなご)は余が斬った。峯打ち故、命に別状はない』 声の主を探して辺りを見回すも、この場に立ち尽くしているのは俺一人。 厳かな低音はさらに脳内に響き渡る。 『失敬、名乗るのが遅れたな。人は余を”感撃丸”と呼ぶ」 まさか……木刀が喋った? 『其方の精神が参っていたおかげで、容易く意識に入り込むことができた。  余が其方の身体を乗っ取り、有難迷惑(ありがためいわく)を成敗したまでだ』 自分の責任が十割でないことが分かったと言えど、 罪悪感はまるで取り除かれない。 信じ難い出来事の連続に、俺はふらつく脚を支えておくのがやっとであった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!