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口から生まれてきたかのようにマシンガントークを披露する美容師や、
レストランで過激な誕生日サプライズを実行する大学生、
ポイントカードの作成を執拗に迫るコンビニ店員を斬り終え、
商店街もいくらか静かになった気がする。
『あと一人成敗できたなら、初日に免じて良しとしよう』
脳内で感撃丸と談笑しながら居酒屋を通り過ぎようとしたところで、奴が制した。
『止まれ。有難迷惑の気配がする』
「乗り込むか」
感撃丸を構え、暖簾を潜る。切先はとある個室を指して揺らがない。
その手前で耳を欹てると、忌々しい発言の数々が聞こえてきた。
「それにはまだ火が全然通ってないだろ!」
「今! 今! 野菜の今が丁度いい柔らかさだから、早く食べるんだ!」
「盛り付けの具材バランスが成ってない! 茶碗、貸せ!」
典型的な鍋奉行か。是が非でも成敗しなければならぬ。
鍋奉行は気の利く人に扮して、自分のいいように鍋周りをコントロールし、
他人に露も自由を与えない。
楽しい交流の空間も奴の存在一つで瞬く間に凍り付く。
これは立派な有難迷惑だ……!
俺は障子を力ずくで開け放った。
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