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「ねぇ、ねぇ、由香。あの人ちょっといい感じじゃない?」
友人の真理が指差す先にはひとりの男性。それは大学の新歓コンパでの出来事だった。
「そっかなぁ」
気の無い素振りで視線を逸らす。少し明るい茶色の髪に白い肌。よく見ると瞳も薄い茶色をしている。実は私もさっきからその男性が気になっていた。
「何かさ、ハーフっぽい感じでいいじゃん。加々見君っていうみたいよ」
大人数が集まるそのコンパでは入口で名前を書くためのシールが渡され、皆そこに名前を書いて服に貼り付けていた。確かに彼の胸には”加々見”と書かれたシールが見える。
「まぁ確かにもてそうではあるね」
きっとその場にいた女性のほとんどが彼に注目していただろう。私と真理が所属するテニスサークルは近隣の三大学からなり、加々見は別大学の学生らしかった。その後何度目かの席替えで彼と隣の席になり言葉を交わす。どこに住んでるの、とか出身地はどこ、といった他愛もない会話でそれなりに盛り上がった。中学、高校と女子校だった私は男性と至近距離で話すだけでドキドキする。飲み慣れないお酒を飲んでいたこともありふわふわした気分で彼を見ていた。と、その時皆の視線が私たちに向いていないことを確認した彼は私の頬にそっとキスした。驚いて目を丸くする私の耳元で彼は囁く。
「ね、俺と付き合わない?」
今日会ったばかりなのに、と戸惑う私に彼は言う。
「これからお互いよく知ればいいじゃん。俺、君のこと好きだな」
この時の私は有頂天だった。皆が憧れる男性から告白されたのだ。……そう勘違いして。
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