12 奇襲・誘惑作戦

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12 奇襲・誘惑作戦

 真っ赤な口紅。薔薇色の頬。  少し大人びた、甘い白粉。  長い髪を靡かせて、甘い香りを撒き散らし、時に手の甲で髪を払いながら、純真無垢な表情を浮かべてやや上目遣いで練り歩く私の妹キャンディー・ラブキンに、誰もが目を奪われている。 「なにやってんだ?」  愛馬の頬を撫でながら、カイル殿下が別荘を見あげた。  ちょうど妹が、渡り廊下を闊歩している。 「誘惑してるの」 「へえ、強かだな」 「違う。私と離れたくなくて、殿下の傍に常に侍る誰かと結婚したいんですって」 「あ、なるほど」  納得するのね。  大雑把なのか、懐が広いのか……そうじゃなきゃ私を娶ろうとは思わないか。  私も馬を撫でながら、妹の事を考えた。 「ダグラスがいる」 「少し年上すぎない?」 「いや。あそこで話してる」 「え?」  改めて見あげると、本当に殿下の側近であるダグラスが妹と対峙していた。 「あの人、いい年でしょ? お相手はいないの?」 「俺の2つ上だぜ」 「え? 老け顔ね」 「言ってやるなよ。気にしてる」 「……もしかして、禿げるのも早いかしら」 「言うな」  今のところ、頭髪に問題はないけど。  急に来るって聞くし…… 「行くぞ」 「ええ」  殿下に応え、ほとんど同時に鐙に足をかけ跨る。  再び渡り廊下を見あげると、妹がダグラスから望遠鏡を受取り、天使のような笑顔でペコリとお辞儀をしていた。 「……」  あの子は、ああ見えて気が強いし。  少し年上の包容力がある相手のほうが、お互いのためかもしれない。 「それで、ダグラスにお相手は?」 「そのうちできるだろ」  鈍い。 「行こうぜ、花嫁さん」  楽しそうに口角をあげ、殿下が発進。  私もあとを追った。  広大な土地を有する別荘地は、気候もよく遠乗りには最適だった。  父もなかなかの手綱捌きだけれど、若く雄々しい王子のそれは、やっぱりちがう。  風を切り、草原を疾走し、時に並走し、時に追い越す。  2頭の馬も生き生きと駆け、楽しそうだ。  川辺で馬を休ませて昼食をとった。 「そうだ。婆さんが明後日、合流する」 「えっ?」  自分の?  それとも、トラ付きのほう? 「ペロに会いたいだろ?」 「……ええ」  トラ付きのほうね。 「このソース美味いな」  殿下がパンをめくり、具材を確かめた。   「……」  知ってどうするのよ。  作らないでしょ、絶対。 「へぇー。こうなってんだ」 「無邪気なものね」 「ん?」  さすがに機嫌を損ねてしまったかと一瞬ヒヤッとしたら、彼はナプキンを手に私の顔を覗き込んだ。 「案外、口が小さいんだよな」 「っ……」  近い!  ふっ、ふたりっきりだからっ!? 「いっつもなんかつけてる」 「……」  なにも言い返せず、身を任せる事しかできない。  こうして殿下には、食事中、私の口を拭くという習慣ができつつあった。  いけない。妹の心配をしている場合ではない。   しっかりしなくては!
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