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11 新・妹の野望
「素敵だわ……さすがお姉様!」
「キャン──」
「トラさんとお友達になるなんてっ!」
大興奮の妹から熱い抱擁を受ける私、レディ・イーディス。
カイル殿下と婚約しちゃいました。
「私も一緒に行きたかった。お姉様の勇姿を見たかったわ」
「それなんだけど。来週、今度は殿下の別荘地に招待されているのよ」
「えっ?」
キャンディーの瞳、爛々。
「トラさん……」
「いいえ、トラさんは来ない」
シュンとする妹の体を抱きしめて、あやすように揺する。
「でも、つまり、両家顔合わせなのよ。向こうは衛兵込み200人くらいの大所帯で、私たち一家が招かれているの」
「そうなのね。でも、お姉様すごいわ! 王子様のお妃様になってしまうなんてっ! きゃぁぁぁっ!!」
キャンディーが復活した。
殿下はトラより重要度が低いみたいだ。
頬を薔薇色に染めて喜んでくれる可愛い妹を抱きしめていると、この子を幸せにできたならもうそれでいい気がしてくる。
「それで殿下と遠乗りするから、あなた望遠鏡で私たちを見張ってよ」
「いいわ!」
「もうひとり覗くのが好きな人がいるから」
王妃は、狩りや射撃や他人の運動や軍事演習などを鑑賞するのが大好きらしい。
ちなみに、ペロと私は本当に友達になれた。
最終日なんて、並んで昼寝したわ。
「だけど、もうお姉様と離れ離れになってしまうのね」
「キャンディー」
「ずっと……ずっと、一緒にいられたらいいのに」
「どこにいたって私のあなた、あなたの私。愛してるわ、キャンディー」
急に落ち込んだ妹の頬を両手で挟み、唇がにゅっと突き出るまで圧を加える。
「おにぇーひゃま」
「あなたもいつか結婚するのよ。私よりその人の事ばかり考えるようになって、寂しさなんて忘れるわ」
キャンディーが目を瞑り、力尽くで私の手を逃れる。
そして乱れた髪を揺らして整えると、拳を握り、目を据わらせて太い声で叫んだ。
「近場に殿方はいないのっ!?」
「……」
私が思うより、私と離れたくないみたい。
「王宮でしょ? 誰かいるはず……!」
「私じゃなく、あなたを基準に選びなさいよ」
「私、お姉様の侍女になるわ」
「やめて」
「イーディス!!」
父が乱入してきた。
「一緒に銃の手入れをしよう! これがッ、最後かもしれないから……ッ」
半泣きだし。
「……あげない」
妹が私の腰に巻き付いた。
その睨み合いを眺めつつ、初めて、やっと、寂しさを噛み締める。
私は少し、遠くへ行くのだろう。
愛する家族と、離れて。
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