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「姉妹仲がいいのは素晴らしい事です。王家ともなれば確執は骨肉の争いになりますから。兵と民が死にます」
「……」
ほかに言う事ないの?
いや、わかるけど。
……老け顔なのは、気苦労が多いせい?
「でも、婚約は二度目だろ? 前は気にしなかったのか?」
「だからモテないんですよ、殿下」
このふたり、見てると面白い。
「ハドリーね。言う事きいてくれそうだったし、わりと近いし。キャンディーも、私の尻に敷けるタイプだからって喜んでたのよ。いつでも会えるでしょ?」
「そんなつまらない男にお前は勿体ない」
「こんな素晴らしい御令嬢が殿下でいいと仰ってくれたんですから、もう少し気遣いというものを心得て大切になさっては如何ですか?」
「お前はいつまで居るんだよ」
「ダグラス。私けっこう大事にされてる」
「え? 足りませんよ。殿下はいつまでもがさつでまるで子供──」
くしゅん!
「……」
「……」
「……」
和気藹々と話していた私たちのほかに、もうひとり、いる。
左方向、奥まったほうに。
私はカップを置いて席を立ち、手すりを掴んで身を乗り出した。
「キャンディー?」
「キャンディーじゃないです」
野太い声で、キャンディーが答えた。
「声の低いメイドだな」
殿下は素直だ。
「違う。ごめんなさい、キャンディーなの。ああいう声出るのよ」
「へえ」
「盗み聞きではありません。レディ・イーディス、御家族の部屋はこの棟です」
ダグラスが要らぬフォローを入れながら、急に茶器を扱い始める。
「様子を伺っていたのなら冷えているでしょうから、あたたかい飲み物が必要ですね。ちょうどいい報告もありますし。大人として就寝を促してきます」
そして瞬く間にトレイを掲げて立ち去った。
その残像を、肩越しに見つめる。
「親切……よね?」
「ちょっと鬱陶しいんだよな、あいつ」
側近の彼に、この仕打ち。
ともあれ、私は再び手すりから身を乗り出して妹に声をかけた。
「だって。聞こえてた? あたたかくして寝てよね」
「はい。ありがとうございます、レディ・イーディス」(低音)
まだやってる。
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