13 そこを動くな

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「姉妹仲がいいのは素晴らしい事です。王家ともなれば確執は骨肉の争いになりますから。兵と民が死にます」 「……」  ほかに言う事ないの?  いや、わかるけど。  ……老け顔なのは、気苦労が多いせい? 「でも、婚約は二度目だろ? 前は気にしなかったのか?」 「だからモテないんですよ、殿下」  このふたり、見てると面白い。 「ハドリーね。言う事きいてくれそうだったし、わりと近いし。キャンディーも、私の尻に敷けるタイプだからって喜んでたのよ。いつでも会えるでしょ?」 「そんなつまらない男にお前は勿体ない」 「こんな素晴らしい御令嬢が殿下でいいと仰ってくれたんですから、もう少し気遣いというものを心得て大切になさっては如何ですか?」 「お前はいつまで居るんだよ」 「ダグラス。私けっこう大事にされてる」 「え? 足りませんよ。殿下はいつまでもがさつでまるで子供──」  くしゅん! 「……」 「……」 「……」  和気藹々と話していた私たちのほかに、もうひとり、いる。  左方向、奥まったほうに。  私はカップを置いて席を立ち、手すりを掴んで身を乗り出した。 「キャンディー?」 「キャンディーじゃないです」  野太い声で、キャンディーが答えた。 「声の低いメイドだな」  殿下は素直だ。 「違う。ごめんなさい、キャンディーなの。ああいう声出るのよ」 「へえ」 「盗み聞きではありません。レディ・イーディス、御家族の部屋はこの棟です」  ダグラスが要らぬフォローを入れながら、急に茶器を扱い始める。 「様子を伺っていたのなら冷えているでしょうから、あたたかい飲み物が必要ですね。ちょうどいい報告もありますし。大人として就寝を促してきます」  そして瞬く間にトレイを掲げて立ち去った。  その残像を、肩越しに見つめる。 「親切……よね?」 「ちょっと鬱陶しいんだよな、あいつ」  側近の彼に、この仕打ち。  ともあれ、私は再び手すりから身を乗り出して妹に声をかけた。 「だって。聞こえてた? あたたかくして寝てよね」 「はい。ありがとうございます、レディ・イーディス」(低音)  まだやってる。
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