15 結成せよ

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15 結成せよ

 殿下は私を秘密のオアシスへと導いた。 「うわぁ……」  森を抜けたその先に、ぽっかりと空いた緑の楽園。  珍しい花々や、清らかな泉。それに小鳥が囀って、静かな風が吹く。 「いかすだろ?」  他に言い方ないわけ? 「いかすわ」  まあ、合わせるけど。 「たまには真面目に口説かないとな」 「言ったら台無しよ、殿下」 「カイルって呼べよ。夫婦になるんだろ?」  生い茂る草を手で分けて、泉の傍まで進んだ。  岩場に腰掛け、水面を指で撫でる。 「美味いぜ」  促されて、手で掬って口い含んだ。  冷たくて澄んだ、まろやかな味わい。 「気に入ったか?」 「天幕を張って住み着きたいくらい」 「夜は蛇が出るけどな」 「あら。火を用意しなくちゃ」 「食うのか……美味いよな」 「ほぼ鶏」  軽口を言い合って、どちらともなく笑みを交わす。  彼は少し離れた位置で、木に寄りかかって腕を組んだ。 「たまには静かにふたりきりもいいだろ」 「ええ、そうね」 「ちょっと急かし過ぎたしな」 「……」 「なんか言えよ」 「気にしていた事に驚きました」  私は泉の水をかなり思い切って殿下に掛けた。  殿下が声をあげて笑う。   「ほんとに断る令嬢いるの? あなた王子でしょう?」 「直接は言ってこないんだが、だんだん元気がなくなるんだよ」 「それは嫌ね」 「お前は? 見た感じ元気そうだけど」 「元気よ。お陰様で」  ふいに沈黙が落ちた。  彼は私を見つめていた。真顔で。 「元気だってば」 「わかった。よかった」  なんなの、いったい。  とりあえず景色はいいし泉は気持ちいいし、私は連れて来てもらったこの場所を満喫する事に決めた。そして和む事、数分。  ある考えが頭に浮かんだ。 「殿下」 「なんだ」 「もしかして、私の前科を気にしてる? 婚約破棄された件」 「あれは相手が悪かったんだろ?」 「ええ」 「俺はしない。あ、破棄の話」  そうでしょうね。  そう願うわ。 「でもさ」  彼はやはり、その話がしたいみたい。  でも続く言葉は、私にとって、いい意味で予想外なものだった。 「同じ轍を踏みたくないんだよ。あんま嫌な思いさせたくないし」 「優しいのね」 「忘れがちだが、俺はお前に惚れてるんだぞ」 「ええ。そうだったわね」  私は優しい気持ちになって、水遊びを続けた。 「大丈夫よ。殿下はあの馬鹿と違うから」 「カイル」 「カイルはあの馬鹿とは違うから」  改めて元婚約者を思い出すと、はるか彼方のハドリー・ハイランドは、やっぱり少しむかつく奴だなと気づいた。そして、根に持っていた自分の心が、意外だった。
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