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2 裏切り者を追放せよ
「ぉお父様ッ!!」
「おう! どうしたッ!」
書斎の扉を開け放った私に、父が起立で答えた。
「ハドリーは狙撃が趣味の女は嫌いだそうよ。それで可愛いキャンディーを妻にしたいんですって」
「なん……だ、と!?」
「そんな筋の通らない話ある?」
「ぃいいや!」
「馬鹿に言ってもしょうがないから、話は父親に通せと言ってやったわ」
「ああ!」
「キャンディーを呼ぶ?」
父が頷いたので、一度廊下に顔を出す。
「キャンディー! ちょっと来てぇぇぇぇっ!!」
返事が聞こえ、父に向き直る。
「それで、そんな奴は私も嫌だし、キャンディーだって渡せないわよ」
「ああ、もちろんだ」
「どう思う? リーバー伯爵は息子の婚約相手を変えたがるかしら?」
「まっさっか! リーバー伯爵は真面目な男だ。息子があんな馬鹿とは思わなかった」
「そうよね。どうなの? 女側から婚約破棄ってできる?」
「うぅーむ……」
父が顎を撫でる。
「相手がもっと悪人なら理屈も通るが……ただの馬鹿な軟弱者では、ただお前が我儘を言ったのだと世の中は受け取るかもしれん」
「そうね。実際、銃を持つ女はウケが悪いし」
「くそぉー! お前にはあれくらい下手に出てくれる奴がちょうどいいと思ったのに……まさか、よそ見するとは!」
「むかつくわ」
「お姉様、なぁに?」
キャンディーが入って来た。
「ああ。こっちへいらっしゃい、キャンディー」
「お父様も恐い顔して、なにか問題事?」
おっとりと語尾をあげて、私の腰に腕を回し抱きついてくる。
私もその肩を抱いて、少し背の低い妹の顔を覗き込んだ。
「そう。ハドリー、私と結婚したくないんですって」
「……は?」
キャンディーの瞳が凍てつき、声が下がった。
「しかもその理由が、お前が可愛いからお前と結婚したいなんて言ったそうだ」
「はあっ?」
おっとりした子でも、うちの子。
怒るときは怒る。
「なに、ふざけた事……言ってる、の……?」
「もちろん、そんな奴にあなたはあげないわ」
「私だって、そんな奴にお姉様はあげないわよ」
「お父様だってお前たちをそんな馬鹿にやれん」
私たちは、沈黙を挟み見つめあった。
……で。
「よし、リーバー伯爵に手紙を書くかな。うん。どう落とし前をつけるか委ねよう」
「〝婚約破棄は受け入れる〟って書いて」
「〝私は求婚を受け入れない〟って書いて」
父が着席し、黙々と筆を走らせる。
キャンディーがひっそりと呟いた。
「あの裏切り者。お姉様をふるなんて」
こういう子のほうが怒ると恐いのよ、ハドリー?
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