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「銃を扱える私を、狙撃手だって言ったの」
「は?」
殿下の声が、少し高い。
それほど突拍子もない、馬鹿げた事だって、わかってる。
わかってるからこそ、馬鹿々々しくてむかつくのよ。
あいつ……
「狩猟と狙撃の区別もつかない馬鹿だったのよ。射撃大会もたぶん、狙撃手の腕自慢大会だと思ってるわ。男のくせに、狩りもできなきゃ銃も撃てない。まあ、それでもいいわよ。だけど、狙撃って……人は殺さないっつーの」
でも、いつも私に殺されるんじゃないかってビクビクしていた。
「失礼な奴」
「だよなぁ」
殿下はあっけらかんとしている。
大袈裟に受け取らないところも、結構よかった。
私はまた笑顔を向けた。
「あなたは、私の銃の腕を買ってくれたでしょう? だから心配ないの」
「もし撃つとしたら?」
「え?」
殿下が大真面目に続ける。
今日は意外性に溢れている日だ。
「どんな事があっても、絶対に人を撃たないのか?」
「……」
彼の言いたい事は、理解できた。
銃を扱うという事は、他者の命を握ると言う事だ。
私は迷わず答えた。
「いえ。撃つわ」
「いつ?」
間髪入れずに質問を重ねてくる。
だから私も即答した。
「家族を守るとき。もしキャンディーが襲われそうになったら相手を撃つし、瀬戸際なら仕留めると思う。あまり、そうなってもらっちゃ困るけどね」
「正当防衛なら妥当だ。俺も、お前のためなら迷わず撃つ。そういう場合に嫌われたら困るけど、ま、心配なさそうだな」
「気が合うわね」
「ああ。最初からそう思ってる」
殿下がゆっくりとこちらに向かってきて、正面でしゃがんだ。
間近から覗き込む眼差しは、力強く、真摯なものだった。
「俺は、お前が好きだ。お前は? 好きになれそうか?」
こういうところ、わりと優しい。
私もまっすぐ見つめ返した。
「このまま、いつの間にか、あなたに恋をすると思う」
「ああ。待ってる」
キスの代わり、彼は私の頬を優しく撫でた。
それだけで、正直、胸はドキンと高鳴るけれど、ちょっと照れる。
私が目を逸らし、殿下が笑った。
「まあ、結婚すれば盛り上がるだろ」
「そうよね」
「よろしくな、イーディス。仲良く老けていこうぜ」
差し出された手を握り、立ち上がる。
全くロマンチックじゃない。
けれど、彼は世界一の夫になると確信できた。
私の目は節穴じゃあない。
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