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16 愛の狙撃手(※王子視点)
「ローリング侯爵夫人に言われたのよ。『あなたは口に入れる量を半分にして、倍速で噛みなさい』って。たしかにね。今朝から気をつけてみてるんだけど、どう? あなた口拭いて来なかったわよね?」
「ああ。口回りはバッチリだったぜ」
「でしょう?」
イーディスが得意気に笑って、銃を組み立てていく。
手入れの腕もピカイチだ。
なんなら、いい整備士になれる。
よくぞ女に生まれてくれた……!
「ねえ、誰か。私のグラス知らない?」
「陛下」
「陛下」
「陛下」
母がおたおたと尋ね周り、ダグラスと遊興監督ニール大佐とイーディスの父親から両手で頭上を示唆されている。
頭の上に乗る、金縁眼鏡。
3人の男の仕草を真似て自分の頭に両手をやって、母がにんまりと笑った。
「あった」
最初からある。
みんな知ってる。
母は椅子に座り、新聞に目を走らせた。
自分が動き回る才能に恵まれなかった分、世間の事には興味津々だ。
「あらぁ? ここに書いてあるリーバー伯爵令息ってイーディスの元婚約者よね?」
「え゛っ!?」
イーディスの声と手元が乱れる。
別のテーブルで整備を終えた俺は、窓辺に寄りかかって愛らしい俺のイーディスを眺めた。不機嫌そうに寄せる眉。あの渋い表情、なかなか可愛い。
「ハドリー・ハイランドですって」
「なにをやらかしたんだ、あの馬鹿……」
「お父様。きっとたいした事ないわ。だってハドリーだし」
手元が乱れている。
「えっとね。昼食会に招かれて、猟銃を振り回して逮捕されたんですって」
「はあっ!?」
俺のイーディスがキレた。
見ていて飽きない。
「でも……弾は入っていなくて……本人が言うには『令嬢たちにカッコイイ姿を見せればモテると思った』ですって。変わった人ねぇ」
「わあぁ」
ついにイーディスが萎えた。すっかり覇気をなくし、組み立て間近の銃を持った手をべろんと伸ばし、項垂れる。
「気にするな。虫みたいなもんだろ」
俺は励ました。
我ながら言い得て妙だ。
「そうね。ハエのほうがキモい」
イーディス、復活!
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