4 目標発見、接近せよ!(※王子視点)

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4 目標発見、接近せよ!(※王子視点)

「あら、あらあら。私のグラスは?」  窓際に完璧な観戦スペースを作った母が慌てふためいている。 「母上」 「え?」  俺は自分の胸元を指差す。  母は俺の顔を見つめてから、俺の胸を見て、それから自分の胸元を見おろした。 「あら。あった」  いつもの事だ。  この母のどんくささが遺伝していない事を、今日も、神に感謝する。 「陛下の事はお任せください」  この遊興の監督責任を担うニール大佐が言った。  父の側近であり俺も生まれた時からの付き合いだから、適任だ。 「頼む」 「いってらっしゃぁ~い♪」  グラスと呼んで愛用している金縁眼鏡を鼻に乗せた母に見送られ、部屋を出た。  母でありどんくさい姉かのようでさえある王妃ソニアの優れたところは、バケモノじみた若々しさと、自身の壊滅的な運動神経を弁えている2点に尽きる。  観戦を好むくらい、可愛いものだ。  廊下で待ち構えていたダグラスが脇について歩き始める。 「それで。は?」 「はい。ホレス・マレット。マレット子爵というのはどうでしょう?」 「おお」 「モートン侯爵の部下のアルバーン伯爵の元で地方管理をしています」 「お前の連れという事だな」 「はい。私のほうが年嵩ですので」  俺は王子カイル。  側近で兄貴分でもあるモートン侯爵令息ダグラス・ミアーと共に、元帥を務めた重鎮ウォリロウ公爵主催の射撃大会に一応お忍びの(てい)で参戦しに来た。顔を知らない連中が俺を王子だと知ると騒ぐし、驚いて腕が鈍ると審査に障る。  だから一応、鬘と付け髭で、お忍びだ。 「前回は不作でしたが、希望を持って臨みましょう」  俺の腕の話ではない。  参加した貴族の令嬢に、目ぼしい者がいなかったという意味だ。 「別に花嫁を探しに来ているわけじゃあない」 「がさつな殿下を受け止められる乙女でないといけませんので」 「言ってろ」  軽口を叩きながら、俺とダグラスは会場へ向かった。  ウォリロウ公爵の別荘地で隔年の春に催されるこの大がかりな宴は、メインの射撃大会を含め、昼食会に晩餐会、舞踏会と演奏会など、盛りだくさんの10日間を過ごす社交の場だ。  特に射撃大会は、国軍が有望な者を極秘登用するという裏の目的もある。だから射撃大会だけは商人と平民を対象に別の地で予選が行われ、上位12名が身分を伏せて参戦してきている。  彼らには家族が半年食えるだけの金が参加賞として配られる。  毎回いろいろな奴が出てきて面白い。  花嫁よりそっちが目当てだ。 「──続きまして! ジャレッド伯爵ぅっ!?」  進行役が横一列に並んで的を睨む参加者の名前を、端から呼んでいた。  なぜか語尾をあげて。  そして、 「ぅぅぅぅ令嬢!!」  むりやり語尾を繋げる。 「ほう。ついに出ましたね」 「──」  俺は、その姿に魅入られ、息をするのも忘れていた。  背の高い、少しいかり肩で、みつあみの女。  ほどよく日焼けした、瑞々しい肌。獲物を狙う眼差し。 「聞いた事があります。ジャレッド伯爵家長女レディ・イーディスは、かなりの腕前で狩場にその名を知らぬ者はいないとか」  ダグラスの解説も耳に入らない。 「……いた」 「え?」  鼓動が高鳴り、血が沸騰する。 「俺の花嫁だ」
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