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6 愛猫捕獲作戦
しばらく天気の話をしながら食事を続けていると、ふいに騒がしくなり、私たちは同時に首を巡らした。
「トっ、トラだぁっ!!」
「えっ!?」
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」
辺りは騒然となった。
夫の付き合いや晩餐会と舞踏会を目当てに来ていた貴婦人たちにとって、野獣なんて敵国兵と同じくらい恐ろしい存在だと思う。
なりふり構わず屋敷に向かって疾走。
そして次々に転倒。
男たちは誘導に回った者以外、銃を置いていた台に群がっている。
私も自分の銃を取って装填し、群から離れて様子を確かめた。
「……」
トラは、いた。
極めて一般的なベンガルトラ、推定2才。たぶん牝。
酷く怯えた様子で咆え散らかし、無茶苦茶に草の上を走り回っている。
首元でなにか光った。
首輪に、宝石。
誰かのペットだ。
「撃て!」
「待って!!」
私は叫んだ。
けれど男たちは確実にトラを仕留める気で、それぞれ狙いを定め、撃ち始める。
「待ってよ! 飼われてるわ!!」
私の声は届かない。
そのとき、逃げる婦人たちの波に逆らう老婦人に気づいた。
「やめてぇ! その仔を撃たないでぇ!!」
「……」
「ペロ! ペロォォォォォッ!!」
えっ、そんな名前!?
「ペ──」
老婦人が婦人の波に沈んだ。
思わず舌打ちしてペロのほうを見ると、発砲に驚いたせいで錯乱している。
あのままでは、撃ち殺されるか、恐怖で野生の本能が目覚めて人を襲い始める。
「!」
私はペロを狙う銃を次々に撃ち落としながら距離を詰めた。
「くっ!」
「がはっ!」
体に当たってないくせに、大袈裟だ。
父が私に気づき、援護に回る。
そして、もうひとり、私と同じ事をしている人物がいた。
ホレスだ。
ホレスは私よりずっと足が早く、ほとんどペロの動線に回り込んでいた。彼を止めようと何人もの男が追いかけている。そして追いかけつつ、ペロが咆哮をあげるたびにビクついている。
男たちは私と父が阻止するまでもなく、撃つのをやめた。
ホレスがペロに接近したのだ。
手を差し出している。
「……」
でもペロは吠える。
「ペロッ! ペロオォォォォッ!」
老婦人も復活。
全員が固唾を呑んで見守る中、彼女の泣き声が響き渡る。
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