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7 刮目せよ
その夜の晩餐会では、昼間の話題で持ちきりだった。
少なくとも、私の周囲では。
「本当にありがとう、イーディス」
老婦人ことローリング侯爵夫人ハリエット・グレンフェルが私を離さない。
そして同じ話を何度も何度も何度も何度も繰り返している。
「今日の事は一生、忘れないわ!」
「ええ」
一生って、そう長くないわよ。
まあ長生きするに越した事はないけど。
「本当にありがとう!」
「ええ!」
もう充分。
一歩も動いてない。
ローリング侯爵夫人によると、やはりペロは2才の牝で、夫と東南の島国に旅行した際、道端に産み落とされ衰弱していたところを拾ったらしい。
それ以来どんな時も離れず、旅先にまで連れて来て、今日は不運にも鳴りやまない銃声に取り乱して部屋を脱走したところを、ああなってそうなって今こう。
「やっぱり赤ちゃんの頃から育てたから、もう猫と一緒!」
「ええ」
お礼とペロトークのループから抜け出せないわ。
そのとき、ちょうど給仕が通りかかったので、ワイングラスを取ってローリング侯爵夫人に渡した。
「ありがと。気が利くわね。でね、あの仔ったら──」
失敗。
傾聴するしかなさそうだ。
晩餐会はまだあるし、着飾ったのもローリング侯爵夫人とお喋りするためだと思って、いっそ楽しもう。
「普段はなにを召し上がるんですか? ペロ」
「なぁんでも食べちゃうのよ! あなたがパイナップルを投げたのは名案だったわ! 果物も大好きなの!」
「でしょうね」
「草も好き」
彼女がペロを愛している事がよくわかった。
「でも生肉がいちばんの大好物。ナイショよ、みんな恐がるから」
「ええ、もちろん」
「そうだ。明日のお昼前にぜひ私の部屋に来てちょうだい! 毎日、朝ごはんのあとに4時間ほど眠るのだけど、ちょうどお昼前に目を覚ますの」
「仮眠は健康にいいそうですね」
「うつらうつらしてる顔が可愛いのよ!」
ペロの話か。
「それから全身の毛をブラシで梳かしてあげて、毛皮で遊ぶの。あなたもやってみて! こう、丸く絞ってね、猫が猫じゃらしで遊ぶように、絞った毛皮を、こう、左右に──あ」
ローリング侯爵夫人の目が逸れた。
「!」
出口!!
「殿下」
「え?」
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