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とてつもないパワーワードが耳に入った気がして、私は身動きを止める。
私にとっての背後から近づいて来ていたのは、逞しく麗しい青年。殿下と呼ばれるに相応しい格好で、生気に満ちた笑みを浮かべている。
どこかで見た事がある顔……
すぐ傍まで来た彼を見あげてローリング侯爵夫人がグラスを押し付けてきたので、受け取った。
「今日はありがとうございました。本当に命の恩人です」
「ペロは末の妹みたいなものだからな」
「あの仔、本当に殿下が好きで。いてくださって幸運でしたわ。今、イーディスにもお礼を言っていたところですの」
ふたりがいっせいに私を見つめた。
「ああ。そうしていると令嬢に見えるな」
「……」
待って。
この声……。
「まあ。レディはもっと丁重にもてなさないといけませんよ」
「俺のこれは特別扱い。な、イーディス」
私は凝然と彼を見つめた。
「……ホレス?」
「あらやだ。てっきりもうご挨拶は済んでるものと思っていましたわ。イーディス。こちらはカイル殿下。昔っからヤンチャでね。射撃大会にはいつも変装して来るの。なんです? 今回はホレス?」
「カイル、でんか……」
昼間のやりとりが走馬灯のように駆け抜ける。
──髭? いっそ剃ったら?
「……」
だって、子爵って言うから。
すごく気軽に、接してた。
「私、パイナップル投げちゃった……」
ツルっと手からグラスが抜ける。
「まあ!」
なんとローリング侯爵夫人がキャッチ。
さすが、トラを飼ってるだけあるわ。
でも、そんな事より……
「俺たち、息がぴったりだった。だよな?」
ホレス──カイル殿下が雄々しく笑う。
あの鬘と髭の効果は絶大だ。
とても彼とは気づかないし、なにより、この若い百獣の王みたいな風貌のすべてを完膚なきまでに叩き壊していた。
で、今。
「……」
獲物を見つけた野獣のように、じっと私を、見つめている。
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