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1 軟弱者は退場せよ
「あのぉ~……ちょっと確認したいんだけどキャンディーはもう14才になったよね? あぁっ、なんであんなに可愛いんだろう……! 男なら誰だってあんなお嫁さんがほしいって思うなぁ」
「でしょうね」
「素晴らしいレディになる、と言うか既にもうなってる。お淑やかでふわふわで、物静かだけどいつもニコニコして」
「ええ」
「君の妹とは思えないよね。あ! 悪い意味じゃないんだよ!?」
この男はなにをグズグズ言っているのか。
私は腕組みをして真正面から睨みつけた。
「! そそっ、そんなに睨むなよ。そういうところだよ。君と婚約してからというもの、僕は安らぎの瞬間を失ってしまった。もう……実は……嫌なんだ。恐いんだよ、君。い、命がいくつあっても足りない感じで」
「そう。じゃあフライパンでも持ってきて顔と心臓を隠したら?」
「いやいや、今の君は丸腰だし。それには及ばない。大丈夫だ。でも……どうせ結婚するなら……安らげる奥さんがいいな……って」
ハッキリしない男だ。
舞踏会で私に求婚してきたときは、ちょっと可愛く見えたのに。
こんな軟弱者だったなんて。
「それで?」
「その……君じゃなくて、キャンディーと婚約したいんだ」
「だめ」
うちのキャンディーを馬鹿にしないでほしい。
こんな男にはやらない。
「なんでだよ!」
やっと元気がでたみたいね、ハドリー。
私はジャレッド伯爵令嬢イーディス・ラブキン。
話題に上ってる妹キャンディーは3つ下の、おとなしい子だ。
「妹への僻みかい!? 誰だって君じゃなくキャンディーと結婚したいと思うさ!」
これが婚約者。
リーバー伯爵令息ハドリー・ハイランド。
「へえ」
「狙撃なんて淑女の嗜みじゃないからね!!」
「そう」
そんな私がキャンディーは大好きなんだけど、そこはどうなの。
想定外かしら。
「じゃあ、お父様と話して。決めるのはあなたじゃないでしょ」
父親のリーバー伯爵は信頼も厚い、いい方なのに。
「ああ、わかった。でで、でもねぇっ、きっと快諾してくれると思うよ!」
息子はこんな感じ。
「銃を撃つ伯爵令嬢なんて誰も求めてないんだからねッ!!」
へっぴり腰で私を指差し、唾を飛ばしながら、後退していく。
たとえ今この手に銃があっても、撃つ価値もない。弾が勿体ない。
「その乱暴なところっ! 直したほうがいいよ!!」
充分な距離をとったと思ったか、口に手を当てて、わざわざ捨て台詞を吐く彼を、私はじっと見ていた。
もしかしたらコケるんじゃないかと思って。
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