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「ねぇー、マリコさん。これ嵌めてみてもいい?」
僕の言葉に反応せず、大空が店の奥にいる店員を呼ぶ。名前で呼ぶあたり、親しい間柄なんだろう。
暫くして現れたのは、化粧も服装も髪型も派手で、年配ながら少し尖った雰囲気の女性。ここのオーナーさんなのだろうか。
「あら、大空くんじゃない。
もしかして……この可愛い子が、例のお友達?」
「ま、まぁな。……それより早く出してよ」
頬を赤くして、少しぶっきらぼうに答える大空。
学校では見せた事のない大空の一面が見られて、嬉しい反面僕まで赤面してしまう。
「……これ?」
「そうそう。早く出して」
「はいはい」
ケースから出されたそれを受け取ると、大空が僕の前にスッと差し出す。
「……嵌めてみてよ」
「え……」
「ほら、お前の指、女みてぇに細ぇじゃん」
「……」
戸惑いながらリングを受け取れば、その重みを確かに感じた。
……本物は、こんなに重いんだ……
大空に見守られながら嵌めてみるものの、緊張しすぎて上手く嵌められない。
「……サイズ、調べてみる?」
「うん。そーして」
マリコさんに言われて返答に困っていると、にやにやとした大空が僕を横目で見ながら代わりに答えてくれた。
まるで、僕の指輪を買いに来たみたいで……恥ずかしい。
「じゃあ、ちょっといいかしら」
「……あ、はい」
マリコさんに促されて左手を出せば、様々な大きさのリングが括られたリングゲージで、サイズを測ってくれた。
それからマリコさんは、僕に合うサイズのリングを持ってきてくれて──
それを大空が……嵌めてくれる。
「違和感ねーな。スゲー似合う」
「……」
「可愛い」
大空がスッと顔を寄せ、耳元で囁く。
──ドクンッ
全身の血液が、一気に沸騰する。
頬が、熱い。
いつもの口癖の筈なのに……まるで、大空からプロポーズをされたようで……
「……」
「……マリコさん。これに文字彫れる?」
「え……」
驚いて顔を上げれば、大空が嬉しそうに僕を見つめていた。
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