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11話 神社までの道のりで
「由鈴、浴衣着付けられるの?」
こっち見んなよ。
あたしが手早く着付け直した動きに驚いたのか?
……コイツのことだから、きっとそうだ。
真新しい、興味のあることばかりに目がいきがち。
しかし、お前の同級生は、お前に見せるために浴衣を着てるんだぞ!?
心のなかでツッコミしつつ、私は答えた。
「浴衣くらいは。毎年ばあちゃんに着付けてもらってたし」
「へぇ。由鈴の浴衣も見たかったな、オレ」
「あっそ。あ、章、甚平似合うんじゃない? なで肩だし」
「じゃ、来年、だね」
あたしはそれには応えなかった。
来年は、あたしはここに来ない。
再来年もだ。
もしかしたら、さらに次の1年も来ないかもしれない。
「じゃ、来年も来ようよ」
サーヤの言葉に、章は優しく頷いた。
作り笑顔なのかもしれないが、これは、惚れる……!
勘違いさせる系男子を間近で見られて、ちょっと嬉しい。キャラ作りの役に立つ!
「ね、さっき、何してたの? パソコン?」
あーいうのを打ち込んでると、オタク臭いからだろう。小馬鹿にした感じが見える。
それでもあたしは即答した。
「小説書いてた」
「え? 小説?」
「うん。あたし、小説家になるから」
「へ、へぇー……」
3人でかたまって、ニヤニヤしている。
そういうバカのされ方は慣れているし、みんな、そんな反応をする。二次やってる友だちはそんなことないけど。
「由鈴は口だけじゃないから」
章の声に、3人の背筋が伸びる。
少し怒気が含んだ声。
あたしを盾に、自分を肯定したい章の気持ちが透けてくる。
私はなんか腹が立って、話を切り替えた。
「章、花火ってどこで見るの?」
章は目をちょっと泳がせて、指をさす。
「あの神社の土手が穴場、かな。だよね、沙亞優」
「うん、そう。もう行く? 神社のまわりに屋台もあから、行こうか」
彼女たちの足元に注意しながらの道は、意外と時間がかかる。
普通なら15分もあれば着くだろう場所に、30分くらいかかった。
だが、なかなかの人混みと、屋台の数に、あたしは圧倒される。
「……久しぶりかも、こーいうの」
「そう? 由鈴、小さいからはぐれないようにね」
そう言って、あたしの右手を章のTシャツの裾に掴ませる。
すごく自然だったけど、彼の後ろから見える耳が気のせいかもしれないけど、ほんのり赤く見えて、なんだかあたしの耳も、暑くなる。
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