12話 始まった花火

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12話 始まった花火

 まだ日が落ちきってはいなかったが、花火大会は始まった。  これから2時間近く花火が上がるという。  小学生の低学年以来の、花火大会。  まるで様変わりしていて、ついていけない。  なんとか人がいない土手に座れたが、あたしには危機が迫っていた。  あたしはその原因を振り返る。  ──今日の午前中、たらふく飲んだ麦茶は、もしや、冷えたほうじ茶だったのでは、と……。 「ソワソワしてるけど?」  よく気づいたな、章よ……!  そうさ、あたしの膀胱はもう満タン!!!!(叫) 「章、あの……仮設トイレとかあるの、ここら辺?」 「出店の、向こう側だけど」  背伸びをして見たが、全くわからない。  だが、迷ってる暇はない。 「ちょっと、行ってくるわ、トイレ」 「オレも行きたいから、連れてくよ」 「なら、荷物、置いてきなよ」  サーヤの声だ。  振り返ると、手を伸ばしている。 「リュック、預かるって。仮設トイレに荷物落としてもアレじゃん。ティッシュは持ってった方がいいけど」 「わぁ! ありがと、サーヤちゃんっ!」 「……これくらい、いいって」 「よし、章よ、案内しろ! あたしの尊厳が終わる時間が迫ってるっ!」 「なんでそんなにガマンしてんだよ……」 「いいから、急げ! 身軽になったから、マジ、急げ急げ!」  北海道らしくない湿った暑い夜。  あたしは一生忘れないだろう───
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