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13話 別れ
「今からラストの花火だけど、見に行く?」
「ううん。今から帰って、書く」
今の、この気持ちを、作品に織り込みたい。
涙目の彼の目に映った花火、照らされる度に揺れる頬の色、静寂の中の星空の濃淡……
今なら、描ける気がする──!
「じゃ、明日の午後さ、」
「明日はあたし、朝イチ、東京に帰る」
見慣れた道だったため、歩き出したあたしに、章がついてくる。
横を向くと、不思議そうな章の顔に笑ってしまった。
「あたし、東京の人。夏休みだから、ばあちゃん家に遊びに来てたんだ」
「ホントに? 全然そんな風に見えなかったから」
「垢抜けてなくて、すいませんね!」
なんだろう。
言葉が続かない。
何を話せばいいか迷っているうちに、章の家に着いていた。
あたしは自転車にまたがって、リュックからペンとメモ帳を取り出す。
くしゃりと丸まった紙が、章の手のひらに転がった。
「あたし、秋谷由鈴。で、それ、スマホの番号。来年も再来年も、北海道には来ないと思う。だから、次に会えるのは大学生、かな? 覚えてたら、連絡ちょーだい」
じゃ! と、手を上げて、あたしは自転車を漕ぎだした。
何か言いたそうだったけど、章はあたしに手を振った。
「忘れない」
章の声が鼓膜に張りつく。
なんか、それが、心地よかった。
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