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15話 新作が浮かんだ日
「秋谷ー、佐藤が呼んでるぞー」
ドア側の男子から声が上がる。
廊下に視線が投げられたので、あたしはそろそろと出ていくが、廊下が騒がしい。
「コイツが、秋谷」
中学から一緒の佐藤が、偉そうにあたしを指さした。
野球部で坊主のくせにチャラ男という、なんともいけ好かない男だ。
となりのクラスなのに何の用かと、佐藤の横を見ると───
「追いかけてきた」
「……はぁ? ……はぁーーーー???」
もう声が出せないあたしに、梓が肘でつついてくる。
「由鈴、誰、この爽やかイケメン」
「……え、あ、」
どう説明していいかもわからない。
金魚のように口をパクパクさせるあたしに、章は笑っている。心底面白い、って顔に書いある。なんか悔しいけど、なんも言えない!
「オレも由鈴みたく、夢、追いかけようと思ってさ。ここなら、少し近い、だろ?」
夢のためかよ!!!!
心の中で突っ込んでみたけれど、ブレザーに縫いつけられた苗字は桑原と書かれている。
「もしかして……ミナおばちゃんの甥っ子って……」
「ミナミおばさん、オヤジの姉ちゃん。まさか、由鈴のお母さんと親友だってビビったし。だから今、ミナミおばさんと暮らしてて」
朝の朝礼が迫る。
廊下に集まりすぎた生徒たちを教師がほどいていく。
教室に戻される瞬間、あたしの手が握られ、離された。
「忘れなかったよ、由鈴のこと」
去り際に聞こえた声。
そして、手のなかの数字が刻まれたメモが、すごい宝物に見えてくる。
……うん。
新作が、書けそうだ。
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