6話 約束を果たしに

1/1
前へ
/16ページ
次へ

6話 約束を果たしに

 彼のイメージとして、細身、柔らかな髪質、細目、鼻筋が通った顔と、お節介焼き、几帳面、激しい詮索好き……  それらをザックリ総合して、ユウリ、カイトが第一候補と、メモをする。第二候補としては、ソウタとか、ユウタとか、伸びる系の名前じゃないかと想像する。  布団に潜りながら、さらにキャラを妄想していると、あっという間に朝がきていた。  今日は昨日の雨のせいか、蒸し暑さがある。  とはいっても、北海道の蒸し暑さなので、さっそくとあたしはエアコンの電源を入れた。 「ばあちゃん、今日は桃香ちゃんの自転車借りるわ」 「昨日、散々だったもんねぇ。ごめんねぇ」 「いいんだって。ババチャリさ、おじさんにしっかり直しといてもらお? ばあちゃんどっか行って、パンクしたらヤバいし」 「どうかねぇ。もう膝も悪いから乗らないかも。あ、畑でナスビ取ってきて。昼に焼いて食べないかい?」 「わかったー」  あたしは年々、何かできなくなっていくばあちゃんを見るのが辛い。  一度ばあちゃんに聞いたことがある。できなくなることが増えるのは嫌じゃないのか、と。 『年寄りはね、ちゃんとみーんな、年寄りらしくなってくの。由鈴ちゃんも、若者らしく、なーんでもしてみなさい』  この言葉は、あたしにとって、人生の指針になっている気がする。  手のひらほどのナスビを手でもいでいく。もぐというより、茎を折るに近いかも。これもばあちゃんから教わった。  Tシャツの裾をつまんだ袋には、4本並んでいる。 「収穫も、今日で最後かな……他のやつ、まだ小さいもんな」  あたしの北海道の夏休みは明日まで。  明後日、朝イチの飛行機で、ここを去るんだ。  次に来れるのは、いつだろう。  たった数年先なのに、すごく寂しい気持ちになる。  午前中は、のんびりとばあちゃんとテレビを見つつ、雑談しつつ、麦茶とお菓子がかなり捗った。  そこで、ばあちゃんから韓国ドラマの面白さを教えてもらったけれど、私にはさっぱりわからなかった。  でも、帰ってから、ちょっと見てみようと思ってる。  面白いって言われるものは、ちゃんと見ておかないと。  お昼はナスビの油炒めと、目玉焼き。混ぜごはんと、嫌いなサヤインゲンの味噌汁。  サヤインゲンって、筋をとっても、筋張ってて、ぴろぴろって口から出てくるから、ホントに苦手。 「相変わらずだねぇ、由鈴ちゃんはぁ」  こんな会話をするのも、また数年先なんだろうかと思ったとき、 「由鈴ちゃん、時間は有限だよぉ。お出かけするなら、パパッと食べて出かけなさい」  ばあちゃんにけしかけられながら、あたしは予定通り、ババチャリから、桃チャリに変更した。  リュックを背負い直し、またがるが、ため息が出てくる。 「……このピンクがやだから、ババチャリが良かったんだけどなぁ」  今日の日差しは痛い。  日焼け止めを塗っていないこの数日で、肌がかなり浅黒く変化している。紫外線から体を守っている肌に感動するが、いい加減、日焼け止めは塗った方がいいかもしれない。  強い風に押された結果、到着は思ったよりも早かった。ただ風向きが変わらなければ、帰りは地獄だ。 「ここん家だったよな……」  表札がない。  今どきの家はない家も多い。  昨日見たガレージを覗くと、昨日の彼が自転車をいじっていた。そして、あたしを見つけて、手を上げる。 「ホントに来たんだ」  その発言になんかイラッとしたあたしは、 「アイス、おごってやるから、ついてこい、ソウタ!」 「いや、(しょう)っていうんだけど、オレ」 「ショー? ……マジか。妄想候補になかったな、その名前」  ここから一番近いコンビニの方角にチャリを向けるが、ショーはなぜか目をキラキラさせている。  思えば一番最初に声をかけてきたときも、こんな目をしていたかも。 「ね、それって、オレの名前、想像してたってこと?」 「そうだけど?」 「オレの顔とか、仕草から?」 「そう、だけど……?」  まるでトトロに出会ったメイだ。  うわぁーという喜びの表情を作ると、 「じゃ、オレも君の名前、想像してみる! アイス食べるとき、答え合わせしよ」  あまりの勢いに、頷くしか、答えがない。  でも、面白いヤツ、かも……!
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加