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苦い思いと使命の重さをワインで流し込む梶は、酒代で蔵が建つほどの酒豪だ。強い酒を吐くまで飲ませて相手を計る中国やソ連の駐在時代、逆に向こうを潰すまで飲ませて返り討ちにした外務省随一の伝説を持つ。しかし、この大事な場で悪い酒を飲ませるわけにはいかない。
頼んでおいた水のグラスをさりげなく梶の手元に滑らせる志貴を、テオバルドは目の端で捉えていた。口元を微かに引き上げて、穏やかながらも素っ気なく、いささか前のめりの梶に釘を刺してくる。
「それはそちら次第だ。本国のお許しを得て金を作ってもらわなければ、動けるものも動かない」
「まったく、何だって年末なんかにおっぱじめたんだ! ……志貴君、今のは訳すなよ。――とにかく時期が悪い、年明けには沙汰が下ると思うんだが」
「では、話がまとまったら昨日の番号に連絡を。すぐに動けるようにしておきましょう。それと、この計画が有為なものになる秘訣を一つ。――協力者に金を惜しめば、ちゃちな情報しか手に入らない。『パパ』にはそうお伝えを。これは契約前のサービスです」
朗らかな笑顔に派手なウインクまで付け足されたが、あからさまにこちらの足元を見ている。状況が状況なだけに言い値で応じるしかないが、この男が横紙破りの強欲者ではないことを祈るしかない。
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