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 特殊な仕事相手だからこそ敬称で呼び、適切な距離を置いてけじめを付け、互いに不用意に立ち入らないようにしたい。志貴が巡らせようとしていたその壁を、見越したようにテオバルドは軽々と飛び越えてくる。  よくわからない男だ。  黙って確認することもできたのに、こうして姿を現し手の内を見せる目的は何なのか。しかも、降誕日を間近に控えた凍りつきそうな夜――実際、気温は氷点下だろう――、わざわざ先回りして待ち伏せてまで。 「ではこうして君が私を待ち伏せしていたのも、その行き先が一等書記官の宿舎であることを確認するためですか」 「三分の一はそうだ。もう三分の一は、夜道は危険だから美人を家まで送ること」 「残りの三分の一は?」 「家に着いたら教えよう」  そう言って、テオバルドは志貴を促してくる。確かにこうして立ち尽くしていても、体が凍えるばかりだ。  この分では、当然テオバルドは志貴の部屋の住所を把握しているはずだ。断ったところで意味のないことだと、志貴はテオバルドと連れ立って夜道を歩き出した。石畳の上に靴底が立てる乾いた二組の音が、互いを追い掛けるように規則正しく続く。 「答えられる範囲で結構ですので、質問しても?」 「うまい聞き方だな。しかも美人の頼みは断れない」
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