(17)

27/27
前へ
/442ページ
次へ
 それが一転、墓地では祝福を乞う厳かさで、唇を結び合わせた。どちらにも共通するのは、離れがたいという一点だけだ。  テオバルドは何かを隠している。  そう確信しても、志貴には、朗らかに明るい顔をした男を、この惨劇の場所で問い質すことはできなかった。これ以上、彼の負った傷を抉りたくなかった。  一見、何も変わらない。二人の関係が、これまでとは少し形を変えたことも、どちらかが言い出さなければ表出することはない。  逢瀬のような遠出も、終わってしまえば、それぞれの暮らしに戻るだけだ。何も変わらない。――そう取り繕うために、二人は普段の自分を演じ続ける。  飼い主と犬という役を。
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

579人が本棚に入れています
本棚に追加