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それが一転、墓地では祝福を乞う厳かさで、唇を結び合わせた。どちらにも共通するのは、離れがたいという一点だけだ。
テオバルドは何かを隠している。
そう確信しても、志貴には、朗らかに明るい顔をした男を、この惨劇の場所で問い質すことはできなかった。これ以上、彼の負った傷を抉りたくなかった。
一見、何も変わらない。二人の関係が、これまでとは少し形を変えたことも、どちらかが言い出さなければ表出することはない。
逢瀬のような遠出も、終わってしまえば、それぞれの暮らしに戻るだけだ。何も変わらない。――そう取り繕うために、二人は普段の自分を演じ続ける。
飼い主と犬という役を。
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