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 やさしい幼馴染の顔を保ちながら、男としての意地を砕き、欲望すらも侵し依存するように仕向けた一洋。  強い光と深い闇を内包し、コスモポリタンの同志と嘯きながら、愛を求めるテオバルド。  一人と深みにはまれば、もう一人を失う。  ギリギリの均衡を保つために隠し通さなければならない秘密を、志貴は今日抱えてしまった。  足元が危うくなるような感覚に、思わず身を震わせた志貴の前に、湯気の立つカップが置かれた。  ほんのりと蜂蜜の甘い香りがする。それは、さきほど唇を辿った別の男の指と舌を思い出させた。  乾いた唇を潤すため、という大義名分を得て、何度も繰り返し唇に塗っては舐め取り、志貴と甘い蜜を共有した男──。 「……ありがとう」  外出し疲れているだろうと、さりげなく添えられた一洋の心遣いが心苦しい。  目を合わせたくない思いに駆られるが、逸らせば必ず問い詰められる。目の前の男が抱く執着は、自身から志貴が目を逸らすことを許さない。  どうにか自分を奮い立たせながら、志貴は隣に座る一洋に向き合った。最も重要なのは、二人の男でも彼らとの関係でもなく、和平交渉の進展だ。 「こんな時間まで待たせてごめんなさい。何があったの、イチ兄さん」 「こんな時間、ね。俺がいなければ、あの男を部屋に上げるつもりだったのか」 「そんなわけない」  即座に否定してから、志貴はその不自然さに気づく。  非凡な記憶力を持つ志貴は、普段自宅に仕事の資料を置いていない。思いついたことを書き留めたメモはあるが、家に置く時は念のため金庫にしまうようにしている。  つまり機密を盗み見られる恐れはなく、部屋に上げたところで、特に問題はないのだ。同じ男で、ただの仕事相手ならば。
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