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それなのに今日、志貴はテオバルドが欲しがる言葉を与え、今また一洋が隠していた感情を晒そうとしている。二人の男を自身に執着させる手立てが、志貴を求める二人の男の愛に、その姿を変えていく。
しかし、それは同時に成立するものではない。
「ん……っ」
また、唇が重ねられる。
堰が切れたように、一洋は唇を触れ合わせる。もう我慢するつもりなどないとでもいうように。
受け入れてはいけないと知りながら、志貴に退ける資格は──なかった。
一年以上、求められるままに痴態を晒し、今では欲望までも管理されているのに、唇は許さない──そんな覚悟の決まらない遊女のような真似など、できるはずもない。
志貴は自身を捧げる覚悟を決めて、一洋の手を取った。だから逃げることはしない。しかし、遊女とその客のように、この関係に恋情は介在しないはずだった。
互いに打算がある中で、唯一綺麗なものは一洋の初恋──君子への恋情があるきりだと、志貴は信じていたのだ。
「イチ兄さんは……」
拒むことも応えることもできないまま口づけは重ねられ、その合間に志貴は呻く。
一洋の口づけは、志貴の知るもう一人の男のそれとはまるで異なっていた。飼い犬を自称しながら、ご褒美をもらう時は強引に、志貴の口内を長く厚い舌で支配する。溢れた滴すらも自分のものだと主張するかのように、ベロリと舐め取る様はまさに犬のようだった。一途に飼い主に執着する様に、志貴は密かに、安堵と仄暗い陶酔を覚えていた。
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