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「お前が苛められてたのは、多分にそのせいだ」と一洋は軽く苦笑を浮かべた。 「女の子と間違えるくらい可愛らしいのに、中身はおっかない仁王様そっくり、芯があって口も立つ。かまいたくても、接し方がわからなかったんだ。その点衛藤家(うち)は、志貴が生まれた時からの付き合いだから、俺も兄貴たちも遠慮なく猫可愛がりできた。守ってやらなきゃならない、可愛い末っ子と思ってたからな。嫁さんをもらって子供もできて、多少落ち着いたみたいだが、兄貴たちは今もお前を『志貴ちゃん』と呼んでかまってただろ」 「僕にも、息子がいる。先立たれてしまったけど、妻も」  咄嗟に志貴は口を挟んだ。  衛藤家の過保護な長男次男だけではなく、志貴ももう子供ではない。悪ガキに苛められるどころか、悪童を足掛かりに終戦の根回しに奔走する外交官として、一洋の隣に立っている。  ただ志貴の弱さのために、異国の地で歪な絆を結ぶことになったが、あくまで重責に耐えうる精神状態を保つためだ。どんな形であれ、帰国する時に別れが訪れるテオバルドとは違い、家族ぐるみの付き合いがある一洋との関係は、どちらかが死ぬまで続く。 ──否、これまで何世代にも亘って、両家の家族同様の付き合いは続いてきた。志貴がそうだったように、英もあと数年経てば衛藤道場の門下生になるだろう。衛藤家の子供たちと兄弟のように育ち、大人になり、やがて次の世代へ命を繋げていく。その過程を見守り育む大きな家族に、一洋も志貴も属しているのだ。
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