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 思わず首を竦めたところに、一洋の顔が近づいてくる。傍若無人な指とは違い、遠慮がちにそっと吐息を盗まれた。 「……ふ、ぅ……っ」 「愛してる、志貴」 「兄さ、んぅっ……」  硬軟を織り交ぜた巧みさに、拒むこともできない。  抵抗の意思を示さない志貴に、かすかな口づけは次第に深まっていく。思いの丈をぶつけるように口内を(まさぐ)られ、子犬のように小さく鼻を鳴らした志貴の背に、一洋の長い腕が回される。  檻のように抱き込まれたまま、苦しく切ない口づけは続いた。  再び見つめ合った時、二人の唇はしっとりと濡れていた。弱いところを舌で探られ、隠しきれずに身を震わせて、易々と快楽の芽を起こされた志貴の目も──。  指の背で志貴の唇を拭いながら、一洋が言う。 「頼りになる年上の幼馴染。それならずっと、お前の側にいられると思っていたが、そうも言ってられないようだ。……こうも簡単に俺の自制を破ってくれたあの男に、感謝すべきなのかもしれんな。一生言わずにいようと思っていたのに、こんな形でぶちまけることになった」 「こんなことなら、お前に触れなければよかったな……」と呟きながら、名残惜し気に男の手が離れていく。 「たっぷり体が潤ったせいか、表情も雰囲気も艶やかになった。……志貴の色気を、俺が磨いてしまったな」 ──間違えるな。あんたの色気を手懐けて、ここまで磨いたのは俺だ。衛藤じゃない。  暑い夏の日の執務室、ソファの上で囁かれた言葉が甦り、冷たく志貴の背筋を粟立てた。
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