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 交わることのないはずの二人の言葉が、志貴の中で重なり、その奥底にあるものを引きずり出して自らの手柄にしようとする。  男たちとの関係の手綱を握るのは自分だと、志貴は思っていた。自分がしっかりと線を引き、距離を保てば、男たちは望み通り側にいると。  しかし実際は、男たちの手で少しずつ変容させられていたというのか。飼い慣らされ、逃げられないように仕組まれたのは、志貴の方だったのか。 「考える時間はやるから、真剣に考えてくれ。この先、俺と生きることを」 「イチ兄さん、それは」 「断るなら、会うたびに誘惑するだけだ。誰にも遠慮はしない。本気で落としにかかるから、覚悟しておけよ」 「そんな……っ」  情の(こわ)さを──積み重なった想いの深さを思い知らせるように、言葉も眼差しも、剛い。  幼馴染の殻を脱ぎ捨て、一人の男として迫る一洋を、穏便に躱す術が見つからない。  表情は凍りついたまま、それでも繰り返された口づけで色を帯びた志貴に、一洋はいくつもの感情を押し殺すように息を吐く。獲物を追い詰める雄から穏やかな幼馴染の顔に戻ると、 「本当にお前はタチが悪い」 おどける口調で詰りながら立ち上がった。 「ちょうどよく、と言っていいのかわからないが、急に明日から一週間、出張が入った。それもあって、どうしても今夜、お前に言わなければと気が急いた。……手遅れになる前に」  手遅れとは、何が──とは訊けなかった。 「まずは一週間考えてみてくれ。戻ったら連絡する」 「俺がいなくてもちゃんと飯を食えよ」と言い置いて、ソファに志貴を残したまま、一洋は部屋を出て行った。
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