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 あの夏の日に、テオバルドは警告を発していた。  信頼する部下が突然音信不通になり、渡米して捜索することもできない焦燥の中、諜報活動を継続して桐機関を支えていたのだ。  その間、志貴は、梶は、何をしたのか。  集められた情報はすべて本国に送ってきたが、調査継続の指示があるだけで、和平交渉にはまったく言及がない。徒らに時を費して、連合国側との直接の接触が可能な中立国にいるのに、いまだ終戦の糸口すらも掴めていないのだ。  桐機関が最重要機密と位置付けてきたアメリカの新型兵器も、この八ヵ月で随分開発が進んだことだろう。その間に、恐らく殺された諜報員の足取りから、連合国は桐機関の実行部隊のリーダーに辿り着いた。  志貴たちが──入手した情報を打電し続けた本国が、戦局に対し何の成果も出せずにいる間に、それだけの猶予を敵に与えていた。中立国スペインにいるテオバルドにまで危険が及ぶようになったのは、当然の帰結なのだ。  いずれこうなると、テオバルドはわかっていたはずだ。  警告しても顧みられず、身の安全が削られていく。挙句、半ば予想していたのだろうが、大切な部下を永遠に失ったことを知り、間を置かずに自らも直接脅迫された。  国を出るというのは、もはや誰も──ナヴァスでさえも、彼を守り通せる者がいないということだ。日本公使館にもその力はなく、頼れる相手ではないと見做された。  今テオバルドを守るのは、敵を出し抜き、追手から逃れるに足る時間だけ──。 「……なのに、どうしてここに……」 「言っただろ、別れを言いに来たと。恋人らしく、名残を惜しみに」
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