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 志貴は、何をされても逆らわなかった。  追手を撒いたとはいえ、敵はすでにテオバルドを捉えている。治外法権の認められている公使館とは異なり、一等書記官の宿舎にすぎないこの場所も安全とは言えない。  それでも、命の危険を顧みずに自分を求める愛しい男を、志貴も求めずにはいられなかった。二人に残された時間はほんのわずかで、意地や建前でこの交情を滞らせることはできなかった。  それに志貴には、恋人の名に酔う男を卑しい体で受けとめ、彼の恋情を失望に換える務めがある。  性急に求められ、縺れる指でそれに応え、シャツのボタンを外そうとするのを止められる。男の視線に炙られながら、着ているものを一枚一枚剥ぎ落とされた時から、志貴の体を支配するのは、欲情を滾らせた小麦色の獣だった。  全裸にした志貴を部屋の真ん中に立たせ、彫像を愛でるように、テオバルドはその視線で志貴の全身をじっくりと舐め上げる。長いおあずけを食わされた犬が、飢えを満たすかのようだ。  舌舐めずりする音まで聞こえそうで、羞恥で肌に火を点けられた志貴が思わず俯くと、綺麗だ、とうっとり囁きながら、腰に手を回してテオバルドが逃げ道を塞ぐ。  そのまま浴室に連れ込まれ、シャワーの湯を流し込まれて体の奥深くまで何度も洗われる屈辱的な仕打ちに耐え切った時、志貴の羞恥心は殆ど擦り切れていた。  立ち上る湯気の中、言われるままに浴槽の縁に手を掛け、膝をついて腰を掲げ、強いシャワーの湯で秘部を執拗にくつろげられ脱力する志貴を、熱く見つめるテオバルドの表情は恍惚としている。長らく狙っていた獲物を脚の間に捕らえ、喉笛を引き裂く瞬間を楽しむ獣のようだ。
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