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真っ赤になって抗議する志貴に、とてつもなく卑猥なことを言っておきながら、テオバルドはまったく心当たりがないとでも言いたげに肩を竦めた。
「可愛い犬に変態とは、とんだ言い草だな」
「変態に変態と言って何が悪いっ」
「大事なことだろ。あんたの中が今、どんな色をしてるのか──初心なピンクか、熟した赤か。終わった後も確認しないとな。俺のせいで真っ赤に充血して、入口は腫れてほころんでることを。まあ、俺のが溢れてどろどろで、色なんてわからなくなってるだろうが」
露骨な言葉の当てこすりに、冷水を浴びせられた気がした。
テオバルドが、一洋と重ねた夜を思い嫉妬に身を燃やし苦しんできたことを、志貴はようやく知る。普段会う時は、開けっぴろげなラテン男の顔をしていたから、人目を避けて口づける時の激しさに慄くことはあっても、その懊悩に気づけなかった。いつも余裕めいて、焦燥に揺らいだのは部下が消えた時くらいだったから。
この男は、何でも呑み込み秘めてしまうのだ。過去の傷も迫る危機も、飼い主との間に引かれた一線を守り、一人腹に納めようとする。
志貴は体の力を抜き、テオバルドに身を任せた。
もう飼い犬ではない以上、彼に我慢を強いるわけにはいかない。例え塵のように取るに足らないことでも、別れの前に彼の苦痛はすべて取り除きたかった。
志貴の覚悟を傲然と飲み干すように、テオバルドは開いた穴を電球に向け、存分に検分した。その中の有り様を、逐一卑猥な言葉で教え、羞恥に唇を噛み締める志貴に気づくと、ふっと中に息を吹きかけて、甘い悲鳴で唇をほどいた。
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