1話

2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「……っはああああ!! 死ねええ!」 訓練場で剣を死に物狂いで振るう僕。 「うわっすっげえなグリム卿」 「今日は荒れてるなーあいつ」 うああああ!! なんなんだよあの王子! 私の名前を呼びやがって! 私は僕になったんだぞ! お前のおかげで! 13歳の時に僕は騎士になった。 12の時に、私だった僕は、王子の婚約者として指名されたせいで色んな貴族に命を狙われ死にかけた。 初めは嫌がらせだけだったのに、最後には家を燃やされた。 本来ならそこで死んでるはずだっけど私は運良く生き残った。 「……ムカつく、ムカつく、ムカつく!!!」 私を婚約者に指名したアイツも、逆恨みする人間も全員!! 少し焦げた髪を切り落として、私は決意した。 誰にも負けないかっこいい男の子になると。 父上と仲良しの魔導師に鍛えてもらって私は一年で強くなった。 ちょこっと魔法の力でドーピングはしたけど。 そして(クレア)(グリム)になって騎士の入団試験を受けた。 結果は見事首席合格。 初めは王様やあの我儘王子や国の重鎮達に反対された。 だけど、デビュー戦で多くの戦果を挙げて僕はこの国に必要な騎士になった。 この僕が女の子だったことは国のトップシークレットとして闇に葬りさり、僕が彼の婚約者になる話も無くなった。 なのになぜだ! なぜアイツは未だに僕を気にかける! 僕の何がそんなに良かったんだよ! あん時ただスイーツ食ってただけだぞ! そんなに僕が可愛かったか!? ぺちゃパイで生意気で何の色気もない僕が!? まぁ、顔は美形だけどさ! 「おーいブサイク荒れてるなぁ」 「だぁれがブサイクだって!!?」 「うわっ、ちょっ、危ねぇなぁもう」 「僕の事ブサイクとか言うからだよ、レルド」 この赤髪のアホはレルド・アレグランド。 僕の同期だ。 僕の1個上で14の時に騎士になった。 史上最年少騎士の称号を狙っていたらしく、その称号を奪った僕をライバル視している。 「仕方ねえじゃん、お前本当にブッサイクだったんだからさ」 「はぁ!? 僕は滅茶苦茶かっこいいし! 学校でも1番人気だし!? ギムレット様より僕の方が人気高いし!? 青空の聖騎士なんて呼ばれてるし!? ガサツでだらしないアホに、ブサイクなんて呼ばれる筋合いないんだけど!」 「んだとごらぁ!? 俺だってお前に負けてねえし!?」 「ぷーくすくす! この前一緒に出かけた時女の子に声掛けられたのどっちだったけなぁ?」 「よーし、わかった。おい! 木刀貸せ! 決闘だコノヤロー!」 「かかってこいバーカ!!」 ムキになった僕らは訓練そっちのけで喧嘩をしようとする。 これが僕の日常でもある。 学校に行って女の子にキャーキャー言われて男の子と喧嘩して、学校終わって騎士の仕事を始めてもこれだ。 「おやおやぁ? 真面目に訓練もしないで遊んでいる悪い子は誰かなぁ?」 「「うげっ!?」」 悪ガキを見つけて、楽しそうに悪い笑みを浮かべる胡散臭い白装束が争いを始める僕らの横にやってきた。 「ラファエロ!」 「こら、ここでは師匠だろグリム」 彼の登場で同僚達はザワついた。 「宮廷魔導師ラファエロ様だ……!」 「珍しい」 「……面白くねぇ」 「いやぁ君達ちゃんと強くなってるかい? 王様から見て来いって言われてねぇちょっと遊びに来ちゃった」 ニコニコしながら楽しそうにするラファエロ。 「おいおい、そう言って可愛い弟子が俺様に負けるのが怖くて心配になって見に来たんだろ? ラファエロ様」 「ははは、おーい誰かガムテープ持ってきてくれこのクソ生意気な赤髪の髪の毛をムシってグルグル巻にしてやる」 ……この2人も言い争うくらいに仲良いからなぁ…… 任命式の時に僕らに突っかかって来た時からの付き合いだ、あの時はこんなに仲良くなるなんて思わなかったけど。 「まったく、この暴れん坊達め……僕の気も知らないですぐ戦おうとするんだから」 「心配すんなよラファエロ様、俺様は強いんだぜ! 怪我なんて大した事ねえよ」 「そうだよ、ラファエロ。僕なんて傷つけばワイルドだって女の子達からキャーキャーいわれるんだぜ?」 「けっ、このモテ男」 「へへーんだ」 「あのねぇ……」 呆れた様子を見せるラファエロ。 「まぁいいや、グリムちょっといいかい。君のお父様が話があるってさ」 その言葉で再びざわつく。 父上が……? 「まっ、まさかグリム昇級か!?」 「嘘だろ!? まだ3年目だぞ!」 「分隊長か? いや副隊長か!?」 「もしかしたら隊長かもしれんぞ!?」 「はははそんなんじゃないよ、ちょっとした家族会議さ。皆も知っての通りこいつは女好きだからねぇ、お父様がお怒りなのさ」 おいおい、勘弁してくれ。 皆ほっとしてるけど私はそんなんじゃないぞ。 「はははっ! 流石色男!」 「雷撃卿の雷を受けるとか名誉すぎんだろ!」 「僕の事笑ったやつ後でチリにしてやるからな!」 指をさしてそう吐き捨てて僕はラファエロについて行った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!