1話

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そして、日曜日。 家の門は開き、大勢の人がやってきた。 窓から外を覗いているが見ているだけで気分が悪くなる。 げぇえええ、まじでやらなきゃだめ? 今更後に引けないし……本当は断りたい! だって王子の嫁だよ!? 私の事気に入ってくれたのはいいさ! こんな私が人に好かれるなんて滅多に無いし! たっ、確かに美味しいご飯とスイーツが食べれるメリットはあるさ! でも、デメリットが多すぎる! こんな私が王国の象徴だぞ!? もっと考えろバカ王子! 「……入るぞクレア」 「ちっ、父上!!」 久々に帰ってきたやつれた父上。 心配になって思わず駆けだした。 「大丈夫ですか父上!」 「ちょっとな……軍の方で色々あって……」 だからか、城が使えないの。 「……大丈夫かクレア」 「今の父上よりは」 顔色の悪い彼は私のことを心配して頭を撫でる。 「無理はするな、ここで断ってもいいんだぞ」 「うん、断りたい。けど……」 本当は今すぐにでも婚約なんて解消したい。 でも、私があの時言っちゃったんだもん。 それに、あいつも可哀想だし。 うあああ!! 本当に私って無責任なやつ! 情に流されちゃって! 自分が大変な事になるって分かってるくせに! 「断れない状況になってるから、頑張る」 「クレアあああああ!?」 凹んだ私をみて父上は凄い顔で私の肩を掴んできた。 「何された!? あのペテン師のせいか!? 何を言われた! あの野郎ぶっ殺してやる!……俺が不甲斐ないばかりに!」 「ちょっと父上、雷撃卿のイメージが壊れる」 「イメージなんて知るか! あーそうだよ、俺は親バカさ! 娘の幸せが1番に決まってるさ! なんで望まれてない結婚なんてするんだ! 大丈夫だお父さんが何とかする! お前の為なら剣でも国王にぶっさ……すのは無理だが何でもするぞ」 親バカにも程がある。 「父上……」 「母さんが居なくなってから、俺はお前を大切に育ててきた当然だろ。それなのにぽっとでの男が……」 メラメラと火を燃やす父上。 うん、この人多分いま疲れすぎてテンションおかしな事になってるな。 私の母上は私が5歳の時に家を出た。 理由は伝えられてない。 父上は母上のことを隠そうとしている。 ……まぁ、そういうことなんだろうなと。 物心ついた時から理解はしていた。 「そういうことだ、奴に何を言われてお前が無理に婚約を承諾したことは伝えてくる、そしてこの婚約を破棄してくるぞ! その可憐な姿はそのままにしておけ! 婚約破棄祝いにご飯でも食べに行こう! じゃあ後で! まってろラファエロおおお!!」 父上は勢いよく部屋を飛び出して行った。 「……なーんか大変な事になーりそ」 他人事かよ私。 こんな事なら最初から父上に相談……できなかったな、ずっと城に泊まってたらしいし……もっ、もしかしてあの魔導師のせいか!? 「……お嬢様、いらっしゃいますか?」 ドアのノックと一緒に使用人の声が聞こえてきた。 「いるわよー」 「左様ですか、確認したまでです。何かありましたらお呼びします」 「ん? はーい」 なんも用が無いなら来なくてもいいんじゃないかなーなんて。 その少し後何処かから変な音がして屋敷が揺れた。 「……なんだろ、なんか変な感じ」 少し気になってドアを開けようとした。 だがガチャガチャとドアノブを動かしてもドアは開かない。 その時だった。 「きゃああああああ!!! 屋敷が!」 窓の外から悲鳴が聞こえる。 逃げ惑う人々。 こっちを見てとても脅えている。 「いやあああ! 燃えてる! クレア様! クレア様が中に!」 泣き叫ぶ外に居るメイド。 状況はだいたい理解した。 逃げようにも逃げられない。 ……ははっ、そーだよね。 私婚約者だった。 国の未来の女王様。 消そうとして当然じゃん。 私が居なくなれば幸せだもんな。 どこの誰かは知らないけど私を殺そうとした。 まぁ、大方親バカだろうね。 くっそ、門を開いたせいで上手いこと入られたな。 皆ハッピーな脳みそになってるから気づかなかったんだろうなぁ…… 「……あーあ、最悪」 綺麗な死装束を纏って良かったよ。 ついでに死化粧もしてある。 なんて幸福な死だ。 皆私に注目して命を終えるんでしょ? ちょっと熱いけど。 いつの間にか火が部屋まで来ている。 私の12年間なんだったんだろ。 穢れた血って呼ばれて、人を避けて、スイーツ食べて、人を煽って大暴れ。 好きになってくれた人はいたけど、私は恋はしていない。 何も知らずに、好き勝手生きて貴族としての嗜みなんかも身につけなかった。 ……なんかここで死ぬのやだな。 座って死を待ってた私は立ち上がり部屋の窓を椅子で割った。 「きやあああ!! あれっ! あれ!」 「クレア様!?」 「何っ!?」 燃え盛る屋敷の中から私がこんにちは。 結構な高さだな……でも、やるしかない。 助かったらそうだな、こんな窮屈な性別は捨てて誰からも憧れられる父上のような騎士になろう。 そうすれば、こんな面倒臭い恋愛なんてしなくて済む。 かっこいいって言われてさ、そうだ、僕のこと虐めてた令嬢達を惚れさせてこっぴどく振ってやろう。 楽しみだなぁ! 僕にみせてよその振られた時の顔! 嘲笑ってやる! 後々、強くなって僕のこと穢れた血とか言ったやつらが泣いて助けをこうくらいになって恩を売ってやろ! そして僕の靴を舐めさせるんだ! いや、それは汚いな、土下座させて僕のブーツで踏んでやろ! うーんそれもだなぁ……あぁ考えるのが楽しいや! 「よし、やってやる!」 窓枠から勢いよく私は飛んだ。 私の周りの時がゆっくりになったみたいだった。 足を空で大きく動かし前に進む。 安全に落ちれるわけが無いけどせめてもの悪あがき。 「クレアああああ!!!」 あっ、父上。 やっほー、元気? いつもありがとね、多分これ最後だから言っとくね 「父上えええ! 今までありがとおおおお!!」 「バカ言ってんじゃない! 下! 下見てみろ!」 「えっ?」 「グラビディフォール!」 見覚えのある白衣。 彼が杖を掲げると眩い光が辺りを包む。 その影響で私はふわふわと下に落ちていく。 「……大丈夫かいクレア」 「こっ、怖かった」 抱きとめてくれたラファエロの胸に顔を埋めた。 「ごめん、僕のせいだ僕のせいで……」 唇を噛み締めるラファエロの頬を触って私はこう言った。 「そう思うなら私の師匠になって」 「えっ?」 彼は目を丸くして私を見つめる。 「私思ったの、皆に望まれないクレアは要らないって。私の事を気に入ってくれた人間は親以外だと2人だけ」 「そんな事ない! 君は!」 「自分の立場は自分がわかってる。だからね、助かったら生まれ変わろうと思ってさ。だって殺されかけてんだよ? 誰かが私の死を望んだんじゃない。それならお望み通り私は死にます、その代わり新たな私……いや僕が誕生したって構わないよね?」 「クレアもしかして……」 「違う、僕はグリムだ。グリム・アルマーニュ」 そう言って彼から僕は離れた。 「誰からも嫌われた穢れた血の女の子はもう居ない、僕は父上のように誰からも慕われて憧れられるかっこいい騎士になる」 「……言っとくけど性転換の魔法は使えないよ」 「大丈夫、そうしたらまた面倒臭い愛だの恋だのしなきゃいけないから。僕はこの身体のままでいい」 僕の言葉に複雑そうな顔をするラファエロ。 「僕は強くてかっこいい騎士になるんだ、その為なら何だって使ってやる。だから、ラファエロ僕に魔法を教えてください」 「……君はそれでいいの」 「構わないよ」 「選んだ道は辛くて大変だよ、グラムはそれを乗り越えてあの地位を獲得したんだ」 「……分かってる、僕だって生半可な覚悟じゃない」 服についてた大きめのガラスの破片を掴んで、肩の長さまであった髪を切り刻んだ。 水色の髪は風に吹かれて空へと舞った。 「僕はもう(クレア)には戻らない」 その後、クレアは飛び降りて表向きには死んだ事になった。 僕の存在は、逃げ出した妻に引き取れていた双子の弟として扱われた。 当然婚約は解消。 そして僕の正体は、王家とラファエロと父上だけの秘密になった。
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