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冥府
女は両腕を背中合わせに差し出して
わずかに傾げた首筋に青い幾すじもの静脈を沈めたまま
倒れかかる姿勢で俺に抱きついた
女は背後に空白を所有し
幾度となく可視的な嗚咽で唇をむさぼり
腕を噛んだ
歯形が肩から首へと移っていく様を
俺は生き物として眺めようとしたが
女はふと距離を置くと悲しげな瞳でそれを封じる
そうだ
黒ミサの思考で行こう
街や島の在処を俺の方から探していこう
臓腑ごと裏返って抱きしめよう
女もかつては
クローバーを摘み
軽やかに歌をうたい
溢れんばかりに輝いて
燃えさかる時間の中を駆けていたのだ
風はいつも言葉を越えて吹いてくる
冥府の彼方より両腕を背中合わせに差し出すように
数知れぬ静脈を闇に沈めたまま
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