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「ねぇ、サルって知ってる?
さっき柿の実をわざと投げつけられた。
青くて固いやつを、思いっきり。
はさみ怪我して、ぴえん」
カニが書きこんだつぶやきは、
瞬く間にネット上で拡散された。
「怪我させて謝らないなんて、サル最低」
「カニさん、かわいそう。
なのに怒らないとか、どんだけ優しいの」
「凶暴なサルを誰か止めて!拡散希望」
「こういう常識すら、わからないバカっているよね」
正義感に溢れたコメントは、とどまるところを知らない。
とうとう「極悪非道で傍若無人なサル」は、
反論の発言すら許されないまま、
有志達の手によって、垢BANされ、
SNSから永久追放されることになった。
「ありがとう。
みんなの優しさでカニのグルコサミンは元気100%だよ」
そういって笑顔でダブルピースを掲げるカニの写真に、
違和感を抱く者が現れた。
「カニのはさみ、怪我なんてしてなくね?
もしかして自作自演?」
新たな事実の発覚に、またしてもネットは大騒ぎである。
「嘘をついて、サルをいじめるなんてドン引き!」
「サルさん、かわいそう。
カニのせいで、垢BANされるなんて」
「ここに卑劣なカニがいます!拡散希望」
「こういう目立ちたいだけのバカっているよね」
みんなが正義感を振りかざすコメント欄は、本日も絶好調である。
誰が誰を傷つけているのかも、もはや誰にもわからない。
みんな空気を読んで、気軽にコメントをしているだけである。
そう、読んでいるのは「空気」だけ。
サルはカニに柿をぶつけたのか。
カニは怪我をしたのか。
カニは嘘をついていたのか。
事実なんて、どうせ必要ないのだ。
サルを陥れた非業さを晒され、憔悴しきったカニは、
世界の片隅で、ひっそりと小さな命を絶った。
それを影から覗いていたのは、あのサルだったという。
その後「カニみそ、うめぇ!」と
名無しの書き込みがあったのは、偶然だろうか。
もちろん、事実なんて、どうせ誰も読んでいないけれど。
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