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tea alone
澄香さんは部屋の中をぐるりと見回したあと、「内装は透でしょ。インテリアも素敵ね」と言って、4人掛けのダイニングテーブルの片側に雛子ちゃんと座った。
僕はそれだけで浸食されている感じがした。
ここは僕と透だけの空間だった。見られるだけでも入り込まれているっていう感覚がすごくする。
雛子ちゃんの時はそう感じなかったんだから、やっぱり澄香さんが元カノだっていうことを意識してるんだって自分で分かる。
透は僕より先にキッチンに入って黙ったまま紅茶を淹れた。外側がベージュで内側が白に塗り分けられたコーヒー紅茶兼用カップは、初めて雛子ちゃんが来た日に客用のカップがなくて困った話を僕がしたから、それで透がネットで購入していたもの。予備でふたつ買ってあったのが、こんな感じに活きるなんてなんか皮肉な感じ。
僕はキッチンとダイニングの間に立ち尽くしてた。もう部屋に引っ込むべきか、居るべきか。早く引きこもりたいけど、彼女らの意図も知りたい。しんどい。知るのが怖いけど、知らないのはもっと怖い……
雛子ちゃんと澄香さんは親しげに喋ってて、背中側から見ててもキラキラしてて、僕はいたたまれなくなった。僕なりに可愛く見える服を着たものの、本当に輝いてる人の前ではただ恥ずかしいだけで。
「座ったら」
透がトレーに4つの紅茶を用意したことで、僕の居場所が確定した。仕方なく透についていき、隣に座る。僕の前には雛子ちゃん。透の前に澄香さん。
気まずさから湯気を立てるマグを取り上げ、透が「おい、」と声を掛けてきたのと同時に紅茶に口をつけて、熱さにびくっとマグを離してテーブルに戻した。ベロがじんじんしてる。僕はもう25年も猫舌なのに、気を抜くとすぐに忘れて火傷する。
「大丈夫か?」
透が隣から声を掛けてくれるのに、ウンウン頷く。自分に注目されたくなくて……
「可愛い人ね」
澄香さんがこっちを見て言ったのが視野で分かったけど、ちらっと見るのが精いっぱいであとは自分のマグの紅茶の水面を見つめてた。
彼女の声色から嘘やお世辞の感じはしないけど、その言葉を素直に受け取れない。だってリアルに輝いてる人から言われたって、そんなの……
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