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「ごめんね。僕、律のことで頭一杯で透のこと見てなくて……これからは一緒の時間作るようにするから、だから」 僕は真剣だった。透の世界に戻してほしかった。でも透はちょっと笑って「何。どうしたの」と受け流した。僕の言わんとすることが分かっててそうしたのか、それとも僕がずれたことを言ったのか、僕には分からなかった。 「そうだ、手紙……手紙書いたの。僕が伝えたかったこと、なかなか話す時間なかったから。あの、書き直そうと思ってたからこんなになっちゃってるけど」 僕はポケットに入れっぱなしでちょっとシワになってしまった封筒を透に渡した。体裁より、恥ずかしさより、透の世界にもう一度入りたい気持ちが勝った。 僕が差し出したそれを透は受け取り、便せんを引き出して広げた。壁面に取り付けられた間接照明がその横顔を照らして、まつ毛が影を作っていた。 手紙には僕の伝えたい気持ちが真面目すぎる文体で書かれてる。 透のことが大好きで、かけがえのない人だと思っていること。出産してから律にかかりきりで、なかなかそういう気分になれないこと。性的な自分に嫌悪感があるということ。でも律から離れて、求められればゆっくりとだけどチャンネルが切り替わること。 重ねて、愛してるって。 透が黙ってるから、じわじわ恥ずかしさが増して顔が赤くなった。 透は顔を上げ、とん、と階段を一つ降りて纏う空気を緩め、僕が近づくのを許した。 「あんたが律のことでいっぱいいっぱいなのは仕方ない。初めてのことだし、器用な方じゃないし。別にそれを責めてもいない」 「でも……あの、もう何か月もして、ないし」 「それも仕方ないって分かってる」 「近づかれた時に変な態度とっちゃったりして、傷つけたよね……ごめん」 「まぁそれはね。触ったり、キスしたりするくらいいいだろとは思ってるけど」 そう言って苦笑した透が、同じ段に上がった僕の腰に手を回して昨日より優しく僕を胸に抱き入れた。 彼とのゼロ距離を思い出した体が震える。 感じていた壁がなくなり、もう一度透の中に入れてもらえたその空気感に驚くほど安心した。 失くしかけて気づいた、僕のもうひとつの居場所。 「律は……?」と耳元に低く囁かれて背中がざわっとした。久しぶりに目を覚ました、透だけのための僕。 「今ねんねしたばっかり。だから……」 出来るよ、という言葉を飲んで顔を上げたらすぐに唇を塞がれて、片腕で足が浮くほどに抱きしめられて、もう片方の手が僕のお尻をやわやわと揉んだ。甘えてるみたいな声が漏れた。それを合図に、口づけはもっと深くなった。
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