天使に出逢う道

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透の清潔な香りのするベッドのシーツに僕の喘ぐ足先が皺をつくり、透を抱き返しながら、まだ薄い恍惚の入口にゆるく揺蕩う。 彼の手のひらも、その動きも、まるでよく馴染んだ曲のように、僕の体はその速さもリズムも知っていて期待する。 悦びのボルテージが上がっていくさなか、彼が枕元に置いていたゴムを取ろうとしたのを、僕は熱くなった手を添えて止めた。 それだけで、伝わったみたいだ。 僕たちは次の子供の話は一度もしたことがなかったのに、まるで計画していたみたいにその道を選んだ。 それは衝動的であるようでいて、それとは違うんだ。 だって透はいつだって先の先の先まで考えていて、彼が一緒に進んでくれるなら、この道で間違いないと思うから。 久しぶりの……彼と幾夜も重ねたすべての交わりの中でも二度目の、直に感じる透の熱。 ほんの0.03ミリのラテックスが、それでも僕と透の間を邪魔していたんだってことが、こうしてみて改めて分かる。 僕と彼が一緒の生き物だという実感。ミクロのズレさえない密着感。このときにしか味わえない快感。 透が僕の中で達した時、僕は彼の大切な精を厳かに受け入れて、本来は分かるはずがない温かな感触をお腹の中に感じていた。 「ごめんね……いきなり……」 イッた後のぼんやりした意識のまま呟いたけど、例のごとく透にはちゃんと伝わった。 「まぁ……俺もそろそろって思ってたしね」 「そうなの……?」 「あんたがその気なら、いつでもいいと思ってたよ」 「そうなんだ……」 甘えたい気分のまま透の方へ体を捩じると、それに合わせて彼の腕がそっと僕を抱き寄せた。 包まれて、守られて、僕は彼の子供を育めるオメガの体を誇りに思う。 僕たちのもとに新しい天使がやってくるのはいつだろう?男の子かな?女の子かな?りっちゃんは赤ちゃんを好きになってくれるかな? 自分に二人の育児が出来るか不安だったことなんて嘘みたいに、一歩踏み出せば楽しみなことばかり浮かんでくる。悪阻(つわり)や出産の痛み、苦しみも、新たな可能性の前には現実感を伴わないんだ。だから二人目を産むことが出来るんだね。 透が布団をひっぱって、二人の体を包み込む。いつもはすぐにシャワーを浴びにいくけど、今は横たわるお腹の奥で透と僕が出逢えるように静かに待ってくれている。 僕は、内からの充足感と布団のぬくもりに満たされて訪れた眠気で目を閉じた。今夜はきっと夢を見る。そこには今と寸分違わない家があり、玄関脇には4匹のこいのぼりが下がってる。そして僕と透と律に迎えられた新しい天使の髪の毛が、5月のさわやかな風にそよいでるだろう。 End
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