第一章 薄紅色の桜と群青の雨

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 何分いや、何時間経っただろうか。窓の外を見ると雨は止んでおり外は真っ暗だった。しまったと思いスマホを見みると20時を過ぎていた。スマホには妹からの着信が何件も来ている。母はパートで夜はいつも私がご飯を作り妹と食べる。きっとお腹が空いたから電話したのだろう。学校も戸締りがとても甘いらしい。図書館を開けたままだった。 「いけない、早く帰らないと」  椅子から立ち上がり帰ろうとした時だった。図書館の隅の方から物音がした。物音がした方を向くと誰かがいるが暗くて、よく見えない。恐る恐る見に行くと、そこには灰色の彼がいた。私はすぐに彼だと気が付いた。こんな時間に1人で何をしているのだろうか。そんな疑問を抱いてはいたが、それよりも少しほんの少しだけ嬉しかった。 「なにしてるの…?」  私がそう聞くと彼はなにも表情もかえず反応も無しに立ち上がり帰ろうとした。私は思わず帰ろうとする彼をどうにか引き止めようとした。 「どこに行くの?」 「…さぁ、分からない……」  彼は私の方を向くわけでもなく真っ直ぐ前を向きながらそんなことを言った。その背中は前に会った時と同じ暗い灰色だった。きっと彼には何かある。私はただそれを知りたいだけだった。多分、私は彼と共通点があるのだと思う。 「少し…話さない?」  私は隣の椅子をぽんっと叩き彼を呼んだ。もっと彼のことを知りたい。この感情が何なのかはまだ分からないけど、きっとカレのことを知ったら私は何かに気がつける気がした。彼は何も言わずに私の隣へと座りこちらを見た。私から誘ったのに少し動揺してしまった。彼の顔をよく見てみると整った顔をしていた。髪の毛の長さでよく見ないと分からないが私から見た彼はきっと世間で言うイケメンなのだろう。 「………えっと」  私は言葉に詰まってしまい何かよく分からないジェスチャーをしてしまった。恥ずかしさのあまり少し彼の方を向くのをやめ、深呼吸をし息を整えた。 「…大丈夫?」  彼が最初に口を開いた。私は大丈夫と彼に言い、しっかり彼の目を見て話した。 「今日はいい天気ですね…」  やってしまった。窓の外はまだ曇っており小雨が振り続けているのに何を言っているのだ。人間は焦るだけで、こんなにもポンコツになってしまうのかと実感した。彼の表情は何一つ変えず私の話に返事をしてくれた。 「うん…いい天気だね」  なんなんだこの状況と思いながら私は彼に話し続けた。私は、なんでもない話をし続けた。今日はどんな日だったとか、私の妹の話や、ひなの話を私は独り言かのように喋り続けた。相手からしたら、とてもつまらない話しなのに彼は何も言わず話を聞いていた。 「それでね…」  私が話を続けて10分程たっただろうか、彼が私の話を遮り問いかけてきた。 「どうして俺に構うの?」  急に投げかけられた質問に私は戸惑った。何故と言われると私にも分からない。きっとその分からないという感情を私は知りたいのかもしれない。 「それが私にも分からないの」  私は正直な気持ちを彼に話した。変に言い訳を言ったて仕方がない。彼はそのまま前を向き立ち上がった。 「そっか…」  彼はそう言い放ち、そのまま部屋をから去っていった。私は彼を止めることが出来なかった。いや、私には止めることはできないと感じた。去っていた彼の背中もまだ灰色のままだった。その頃にはもう雨は止んでしまっていた。
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