第一章 薄紅色の桜と群青の雨

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母は少し不安げな表情になった。 「それって大丈夫なものなんですか?」 「はい、何も問題はありません。病気ではなくてこれは個性です」  母はそれを聞き胸を撫で下ろした。そして、先生が言うには共感覚とは通常の感覚に加えて別の感覚が無意識に引き起こされる現象のことだそうだ。 例えば、文字や数字に色を感じる(色字)や音を聞くと色を感じる(色聴)などの種類が150種類以上確認されていると先生は言う。今では23人に1人が共感覚を持っているという研究結果もあり意外と身近なものなのだ。さらに、芸術家には7倍ほど共感覚を持つ人がいるらしい。有名な偉人で言うと宮沢賢治やレオナルド・ダ・ヴィンチなどが共感覚を持っていたとされている。私は人の周りに色を感じる種類の共感覚だというのが分かったのだ。それから、数年後私はあることに気付いた。私の共感覚は、人の感情によって色が変化していくのだ。怒りだと赤色、悲しいと青色、幸福だと黄色、楽しいとオレンジ色などに変わっていく。街中を歩くと様々な色があり人によって違う。 そんな私の世界はカラフルだ。  私は昔の事を思い出しながら本を読んだ。読み進めていくとこの本の著者の色がモノクロな生活や辛かった事や、それを支えてくれたエピソードなどが書かれていた。私は黙々と読み進めていた。 「なーに読んでんの?」 ひなの声だった。 「えーと…ちょっと気になっちゃって」 「珍しいねー茜が何かに興味持つなんて」 ひなは、にこにこしながらそう言ってきた。 「茜は何にも興味なかったもんね」 「うん…いつもありがとね、ひな」 「なんだよーそんなこと言っちゃてさ」  ひなは、いつも黄色やオレンジ色だ。どんなことがあってもいつも明るくいつも私に寄り添ってくれた。  私自身の色は見ることはできない。だが、きっと私は何色も何色も混ぜ合わせたような汚い色だろう。 「じゃあ茜、帰ろっか」 「そうだね帰ろっか」 「あ、その前にこの本借りたいからひな先に行ってて後で追いつくから」 ひなは頷き図書館を出て行った。  私は本を借り急いでひなに追いつこうと小走りで階段を降りた時だった。階段にしゃがみこむ男子生徒がいた。彼はスラッとした体型で身長は170cmくらいだろうか。私は彼が気になりはしたが急いでいたので、そのまま昇降口を出た。学校を出てすぐの所にひなが待っていた。 「遅いぞ〜茜」 「ごめん、借りるのに時間かかっちゃて」 「あー私結構待ってたな〜」 ひながニヤニヤしながらこちらを見る。 「ごめんって!」 「じゃあ茜には罰として7月にある夏祭りに、私と一緒にいってもらいます」 「はいはい、わかりましたありがたく行かせてもらいます」  ひなは嬉しそうにしながら歩く。その時のひなは、マリーゴールドのように黄色やオレンジ色だった。
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