第一章 薄紅色の桜と群青の雨

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 二ヶ月ほどの月日が流れた。何も変わらぬ日常何も変わらぬ風景、窓の外に数滴の雨粒そこに映る変わらない私がいて、そんなことをかき消すような雨の音が私の鼓膜を揺らす。 「梅雨の時期か……」 「茜は6月になるといつもより元気なくなるよねー」 「ひなが元気すぎるんだよー」  ひなは鼻歌交じりに勉強している。学年でも上位の成績で運動もできる、そして友達も多いまさに完璧だ。 「ひなは私とは正反対だよね……」 ひなは書く手を止め言った。 「じゃあ、茜が凸で私が凹だね、凸と凹が合わさったら最強の2人って感じ?」  真夏の太陽のように笑顔で私にそう言った。まだ6月なのに… 「ポジティブすぎだよ…」 私は机に伏せながらそう言った。 「茜はまたそんなこと言う」 「だって……」 「はいはい、こんな話はおしまい!」 ひなが手を叩き言った。 「それより…」  少しにやけながら何か言おうとしてる。嫌な予感がする。 「夏祭りは、もちろん浴衣だよね!」 嫌な予感が的中した。 「浴衣なんて着ないよ」 「えー!なんでよー」  ひなは私の腕を掴みながら「着てよ!」と何度も言ってくる。 「いーやーだー!」 「おーねーがーいー!!!!」  私たちしかいない放課後の教室に響き渡るほどの声で私を説得しようとしている。 「なんでそんなに着てくれないの?」 「逆になんでそんなに着て欲しいの?」 私はそう聞き返した。 「だって、茜いつもお祭りとか行くと私服で浴衣着てる私がなんか浮いてるみたいになってるんだもん」 聞いて呆れた、そんなことだったのか。 「それならそうと言ってよね!」  ひなにそう言うと、掴んでいた手を離し教室は静かになった。 「じゃあ、浴衣着てくれる?」 「………やだ」 「なんでよー!!」 再び教室が、騒がしくなった。 「そんなに浴衣が嫌なの?」 「嫌ではないよ」 「じゃあなんで着ないのさ」  頬を膨らませながら聞いてくるひなは、まるで食べ物を、口に入れすぎたリスのようになっていた。これがまた可愛いのだ。 「着たくない…わけでわないけど、私、浴衣とか着たことないし……多分似合わないよ」  そう、私には似合わないというか着ても意味が無い。誰かに見せる訳でもないし、見せたとしても誰も私を評価しない。こんなことを思う私は、消極的で否定的な人間だろうか。 「あのさ……茜…」  私は俯きながら少し身構えた。ひなの顔がしっかりと見ることができない。 「こっちを見なさい!」  私はハッとし前を向いた。すると、そこには私の顔が映っていた。 「鏡…?」 「どう見える?」  いきなり言われたので、言葉がすぐには出なかった。私は少し考える、自分でこれを言うのは気が引けるが、こう見ると顔は整っている。これまで、ちゃんと鏡を見ることをしてこなかった。だからなのか、少し私は驚いていた。 「顔は整っている気がする……」  これでは、ぶりっ子ではないか。言ったことを後悔するくらいの恥ずかしさが私を襲ってきた。 「そう、あなたは可愛いの」 「浴衣…似合うかな?」 「大丈夫だよ!似合うよ似合う!」  ひなは、昔から本当に嘘をつかない。いつも何か褒めたり誰かに意見を言う時もひなの周りは白色になる。 「じゃあ…着てみようかな」  体を揺らしながら嬉しそうにしている彼女を見ると純白の白から太陽のようなオレンジ色になる。梅雨だと言うのに、それは眩しすぎた。
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