第一章 薄紅色の桜と群青の雨

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 先生に呼び出された私は職員室へと足を運んだ。呼び出された理由は、分かっていた。おそらく進路のことだろう私だけまだプリントを提出していないからだ。 「立花まだ進路決まってないのか?」 「はい…すいません」 「謝ることじゃあないよ、じっくりと考えな就職か進学かは早めに決めときな」  先生は心配してくれているようだった。心配されたり不安に思われると梅雨の時期の空のような淡い水色になる。その時の先生も、そんな色だった。 「失礼しました」  職員室を出て戻ろうとした時だった。廊下で怒鳴り声が聞こえた。怒鳴り声がする方を見ると1人の男子生徒とキレやすいと有名な先生がいた。 「藍澤!おまえいつになったら課題を出すつもりなんだ!!」 「…」 「学校にも来ないわ、課題も出さないわ、お前は、何をしてるんだ!」 「…」  彼は、どんなに怒鳴られても顔色ひとつ変えずにただ下だけを見ていた。それにも驚いたが1番驚いたのは彼の周りの色だった。 「灰色だ…」  小声で呟いてしまった。今まで生きてきて、いくつもの色を見てきたが、灰色は1度も見たことはなかった。ただの灰色ではない、何か見たことあるような彩りですべてを吸い込んでしまうようなそんな灰色だ。 「いいか!課題を出さなかったら今度は親を呼び出すからな!」  先生はその言葉を吐き捨て職員室へと戻った。彼だけがポツンと佇んでいる。少し時間が経つと何事もなかったかのように彼は帰って行った。私は、彼が見えなくなるまで見つめていた。我に返り私は教室に戻るとひなが待っていた。 「どうだったー?」 ひなは、私に聞いてきた。 「いや…ちょっとねー」  私は頬を少しかきながら職員室での話をした。 「進路がまだ決まってなくてね」 「何かやりたいことないのー?」  やりたいことは正直ない。自分の将来に、さほど興味が無いからだ。 「うーん…特に無いかな」  ひなは、いつものように呆れた顔をしている。私は、ひなを呆れさせてばかりだ。 「本当に茜は、いつも通りだよねー」 「すみません…」  私が謝るのを見て、ひなはクスクス笑いながら私を見てくる。 「なら、私が茜に合いそうな仕事を一緒に考えるよ」 「うん、ありがとう」  ひなは、いつも私に協力してくれる。私は何事も自分で決めた事があまり無い。例えば、服とかも母や妹に決めてもらっている。私は興味が無いものが多い。というか、ほとんど興味がないので何でもいいという気持ちなのだろう。でも、今日の先生に怒られていた男の子には少し、ほんの少しだけ何か興味を引くものを感じた気がする。 「茜はねー可愛いからモデルとかは?」  ひなは最初から、とんでもない事を言っている。 「絶対に却下!」  私は机を叩き大きく首を振った。理由は簡単だ人に見られたくない。モデルなら、ひなの方が向いているはずだ。可愛いしスタイルも良い、それに私みたいにモジモジしていない。 「あはは冗談冗談!」  突拍子もないことを事を平然と言う彼女に私は憧れのようなものを感じる。私は自分で自分を殻で閉じ込めている。自分自身がそれを望んでいて、きっと私の周りの人達もそこに疑問を抱かない。そして私は自分が生きている意味の答えを知らない。いや、知らなくていい。こう思い始めたのもきっとあの日からだろう… 「おーい茜、なんか思い詰めた顔して大丈夫?」 「あーごめんごめん大丈夫。少し考え事してて。そんなことより雨やばくない?」  窓の外を見ると雨で外の様子が分からないくらい降っていた。傘は持ってきてはいたが 差しても意味ないだろう。 「えー!最悪ー!絶対に濡れちゃうじゃん」  ひなは窓に張り付いて声を荒らげてそう言った。そして荷物を持って私たちは学校を出た。
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