雨の日のお迎え

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** 母は笑っていた。 でも、私がそれに気づいているとは思っていないようだった。 夕方、突然降りだした雨は止む気配はなかった。 30年前はむろん、携帯電話はもちろん、ポケベルさえない時代だ。勤め先に電話してみたが、午後5時を回っており通じなかった。となると、連絡のつけようがない。 母は幼い私を連れて駅まで父を迎えに行ったのだ。 しかし、暫く待っても父は改札から出てこなかった。 諦めて帰るとき、母は確かに笑った。 それは、私に向けた愛想笑いとは違っていた。 翌日、父が勤め先の近くの川で見つかった。
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