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ファミレスにて 1
――午後十時が過ぎたころ。
私と父とサキさんはファミレスの出入り口の自動ドアをまたいだ。
店内は人がまばらで、私たち以外の客は二組のカップル、会社帰りのと思われる六人のグループとボッチ客が三人。
私たちはメニュー表を手にしたウエイターに大きな窓の近くのテーブル席へと案内された。
サキさんは窓際の席。
私はサキさんの向かい側の席。
父はサキさんのとなりの通路側の席に腰をかける。
自慢じゃないけど父は、よそのお父さんたちよりイケメンだ。
サキさんと並んでいるとお似合いな美男美女のカップルの出来上がり。
周りからみれば、きっと私たちはステキな親子に見えるはず――。
そう思うとなんだか顔が自然とにやけてくる。
母はどこに出しても恥ずかしい小太りの狸。
目の下に大きく広がったクマがあり、さらに目の周りがくぼんでいて醜すぎて直視できない。
アレはいくらお手入れしても、あの古ぼけた家と同じで汚らしいだけよね。
通りすがりの女の人が見惚れるくらいの容姿と、誰もが知っているブランド服を身にまとっている父には似合わない。
私が手元のメニュー表を眺めながらプリプリ怒り気味にそんなことを考えていると、サキさんが心配そうな顔をし、父は困ったようなほほ笑みをしていた。
「どうしたんだ、エリカ。もうどれにするか決まったのかい?」
「あはは、なんでもないよ。私、和風ハンバーグセットとミックスサラダにするね」
そう答えながらあわてて私はメニュー表をテーブルの横に置く。
父たちは私が考え込んでいるうちに料理を決めていたようで、サキさんがテーブル奥のタッチパネルを慣れた手つきで操作しはじめた。
私は少し落ち着こうと深く息を吸って吐き出す行動をくり返す。
そんな私の奇妙な姿がおかしかったのか、サキさんはさっきのような心配顔とは違いフフフッと笑い声をもらす。
「エリカちゃんは見ていてあきない子ね。学園でそうなの?」
「学園では猫かぶってるよ~。周りはお嬢さまばかりだしさ。色々と合わせないと、ね」
「あら、うちのマミも明星学園だったの知ってるでしょ? あそこは良いとこのお嬢さまばかりじゃないわよ」
「サキさんとこはこの辺では有名な会社じゃないですか。マミさんもりっぱなお嬢さまですよ~」
「田舎の下請け工場なだけよォ。世間様に胸を張って言えるような社名じゃないわ」
などと私とサキさんが和気あいあいとおしゃべりをしていると、注文していた料理が続々と運ばれてきたのだ。
それから三人がそれぞれ注文した料理を食べはじめる。
父はお腹が空いていたのか三百グラムのサーロインステーキを黙々と口に運び、サキさんは家で夕飯を食べてきたらしくミニ天丼をゆっくりした手付きで口にしていた。
私も父同様にハラペコだったので、猛スピードでハンバーグとライスにサラダをお腹の中へと流しこむ。
もう深夜間近というのに、太る太る無駄なゼイニクついちゃうーッ!!
でも食欲には勝てないよね♪
ホントはファミレス好きじゃないけど、惣菜よりかはマシ。
チェーン店の牛丼屋なんかはもってのほかだけど……。
お気に入りのパスタとピザの美味しいお店は、すでに閉まってるから仕方ない。
まだ母が帰宅していないとき、放っといて二人で行こうって父に言っても、優しい父は『それじゃママが可哀想でしょ?』って悲しそうな顔するからごり押しできなかった。
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