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マミさん 1
マミさん部屋の前まで来たとき、さっきサキさんの言葉からコンビニなんかでたむろしている素行の悪い女たちを思いだした。
プリン色の髪に厚化粧で口元をクッチャクッチャさせながら、道行く人を気に食わなそうに睨みつける。
そう考えるだけで腹から頭にかけてブルッとふるえが走ってきた。
私が意を決してドアをノックすると、見知らぬ女性が出迎えてくれたのだ。
「……ま、マミさん?」
私がおどろいた顔でマミさんを見つめているとなにか思い当たったのか、彼女はため息交じりで苦笑する。
「エリカちゃん、よね? わたしの母からヘンなこと聞いてきたんでしょ? 遠慮せずにどうぞお入りになって」
「あ、はい」
そろりと静かにマミさんの部屋に入り込み、花柄のカバーがかけられたソファーに座る。
マミさんはミニキッチンでお茶の準備をしはじめた。
そんな彼女の後姿をチラチラと見ながら思い出す。
長い黒髪の姫カットに黒ぶち眼鏡、フリルにリボンがあしらわれた白のワンピースがよく似合う清楚で控えめな女の人。
それが私が知っているマミさんだった。
久々に会う彼女は、ライトブラウンに軽く内向きにウェーブがかかった髪。
しかもあのキレイで美しかった長い髪が肩までしかない。
さらに服装は薄い水色のシャツに白のボトムスのパンツスタイル。
極め付けが眼鏡からコンタクトに変えて、以前のあまり手を加えないナチュラルメイクではなく、雑誌のモデルのようにメリハリのある明るめの化粧をほどこしていた。
マミさんのオシャレの印象がガラリと変わったことで、別人にしか見えなかった。
だが、今の姿も十分彼女に似合っている。
これは女の子の服の色は白とピンク、フリルやリボンいっぱいでヘムラインの凝ったヒラヒラなスカートのクラシック系を好むサキさん合わないだろうね……。
そう推察していると、マミさんが冷たい紅茶を渡しに差し出した。
すでにガラスの机の真ん中には、お茶請け用の菓子が用意してある。
マミさんは私の対面のソファーに座り、にこにこな笑顔でこちらをみつめた。
「久しぶりだね、エリカちゃん。ヒサコおばさまはお元気?」
「お久しぶりです。……ママは、まあ、元気だよ」
母のことを聞かれてちょっとどもる私に、マミさんは何かを思い出したような、なつかしむような顔をしたのだ。
「エリカちゃんはちゃんと母親離れしようとしてるんだね」
「――え?」
「わたしがエリカちゃんくらいのときは、母がいないと何も出来ない子供だったから……」
マミさんは苦々しくそう言うと、紅茶のグラスに口をつける。
私は重苦しそうな話題はさっきのサキさんだけで十分なので、なんとか明るく気軽な会話になるようにとアノ話を彼女にふることにした。
「そう言えば、マミさん大学を卒業した結婚するんですよね? サキさんが『さびしくなる』って会うたびに言うんですよ」
まるで道化師のような作った笑顔をふりまきながら、私は暗く沈みそうなマミさんをもちあげようとするが――、
「何ソレ!? わたし結婚なんかしないわよ!!?」
「ええっ! でも……」
蒼天の霹靂のように、私とマミさんは目を見開いておどろくのだった。
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