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はじまり
「こんにちは」
リカに初めて声をかけられたのは、半年前の九月。水曜日は部活が休みだから、普段より早く下校してマンションの手前で信号待ちをしてた時だ。
「あ、こんにちは」
俺は習慣でそう返しながら、誰だっけ? って頭を回転させてた。誰かのお姉さん? それかお母さん? リカの年齢は今でも知らないけど、見た目は三十歳くらいに見える。
あいさつだけして別れるのかと思ったのに、リカは笑いながら話を続けた。
「ねぇ、よかったらうちに寄ってお菓子食べない? うち、そこなの」
リカが指差したのは、自宅の向かいのマンションだった。
え、いきなり? てゆうか誰?
近所の人だってことは分かったけど、さすがにお菓子につられて行くほどガキじゃない。
リカは警戒した俺に笑顔で距離を詰めてきて、耳元で囁いた。
「あのね、私の部屋から見えるの。君が夕方、ベッドで何してるか」
全身が、氷水をかぶったみたいに冷たくなった。半袖から出た俺の腕にそっと触って、リカは「行こう?」と誘った。
笑っている人を怖いと思ったのは、初めてだった。
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