はじまり

2/3
前へ
/18ページ
次へ
 連れて行かれたのは、うちのマンションの向かいの504号室。勧められるまま座った二人掛けの赤いソファから、なぜか甘ったるい匂いがしたのを覚えてる。  氷入りのお茶をテーブルに置いたリカは、窓辺に寄ってレースのカーテンを開けた。 「来て。嘘じゃないって分かるから」  そう言われてリカの隣に立つと、細い道路を挟んだ向かいの四階にある俺の部屋は、ゾッとするほどよく見えた。 「実はね、写真もあるんだ」  横を見ると、リカは楽しそうに目を細めている。 「大丈夫、誰にも見せないよ。でも、一人でするより、二人でする方が気持ちいいと思わない?」  リカはそう言って微笑みながら、ピンクの遮光カーテンをゆっくりと閉めた。  自慰(オナニー)なんて、みんなしてる。中学生なら誰だって。  そんなこと分かってるけど、だからって、恥ずかしくないわけじゃない。写真がある、わざわざそう言ったってことは、それを誰かに見せたりできるってことだ。  そんなのをクラスのやつらに、女子に見られたら……  想像したらもう何も考えられなくなって、俺は全部をリカの言うとおりにするしか、なかった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加