第二章

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 哲郎の愛撫はまるで少年が初恋の相手に恐る恐る触れるような、拙さと臆病さを混ぜた手つきだった。付き合う男には困っていない印象を持っていたので失礼かもしれないが少し意外に思う。 「……良くない?」 「んっ、あ!」  考え事をしているのを見透かされたようで胸の尖りをチュウッとキツめに吸われた。久々に人に触られたせいかいつもにも増して身体は敏感に反応してしまう。 「んっ、ふ……」 「気持ちいい?」 「あ、やっ、聞くなっ!」 「教えてほしい」 「ふっ、うぅっ……そこ、あまりっ……舐めんなよぉ」 「ここじゃなかった?」  宝物を探るようにそろりそろりと指先が身体中を這う。環が呻く度に「ここか?」とか「ここじゃないか?」と確認してくる。祐希とのセックスはいつも祐希がリードするままに身体を明け渡していた。だからこそ自分がどうなのか、訊かれながら愛撫されることに酷く戸惑う。一方で哲郎が本当に大事に扱ってくれることに驚いていた。こんなに大切にしてもらったことなんて初めてだ。 「ねぇ、環。教えてくれよ」  いつまでも曖昧な返事や反応をする環に哲郎は困ったように眉を下げる。ふと脚に触れた哲郎の股間はとてつもなく膨れ上がり隠しきれない兆しを見せていた。 「も、もう……焦ったいっ、お前だって、こんなにしてんのに……早く、もうっ」  大切に扱われるのは良いが、焦らされることに慣れていない環からしたら生殺しもいいところだ。哲郎の股間をギューッと足の先で圧迫する。 「そんなんなってんなら、早くしろよ」 「随分と行儀が悪い足だな」 「こうさせたのはお前だ」 「はいはい、最初から早くケツ触ってって言えば良いのにさ」  いきなりムードをぶち壊すような台詞に思わず股間を蹴り上げそうになったが、哲郎の腕っ節に敵うことなくあっという間にスウェットを脱がされた。 「おぉ、ちゃんと感じてる」  緩く環のペニス。先走りがタラタラと垂れて黒い茂みをぐっしょりと濡らしている。このままだと後孔までに垂れてしまいそうだ。  哲郎は一度環の方から身を離すと小走りで洗面所に向かった。それから少しの時間ガサゴソと物音を立てていると思ったら保湿ローションのボトルを持って帰ってくる。 「悪い、ちゃんとしたのなかった」 「ローション、家にストックとかないの」 「俺をなんだと思ってんだ。相手もいねえのにあっても虚しいだろ」 「抱くつもりで呼ばれてると思ってた」  哲郎の人格を疑っているわけではないが多少なりとも下心はあると思っていたので拍子抜けだ。哲郎は少し困ったように笑うと手のひらに保湿ローションをまぶし、両手でゆっくりと温めた。 「まぁ、そう思われても仕方ねえよな」  ますます哲郎の意図が分からなくなってくる。黙っていれば男が寄ってくるような恵まれた顔立ちと身体つき。不自由のない彼が環を選ぶ理由が分からない。 「……痛かったら言えよ」  ぬるりと後孔に粘液が塗られる。生暖かくさらりとしたテクスチャーが気持ちよくて思わず身震いした。 「あ、あっ……」 「痛くない?」 「いたく、ない」 「気持ちいい?」 「きもちい、きもちいいっ」  もう強がることも出来ない。ゴツゴツした指がちゅぽちゅぽと浅いところを出たり入ったりする度に、しばらく感じていなかった熱が一気に身体中を駆け巡る。 「やめ、」 「やめない。環……セックスの時、こんなエロくなんのか」 「変なこと、言うなぁっ!」 「ごめんごめん……でもよく慣らさないと」 「いいよ、もうっ! へーき」 「だーめ。久々、だよな? 痛い思いさせたくない」  ゆっくりと押し広げられていく蕾。下腹部がグズグズと溶けるように熱い。早く欲しい。この男が。こんな我慢出来ないことなんて今までなかったのに。 「もぉいいよぉっ! くれよ、今すぐ!」 「でも……」 「処女じゃないから! そんなにしなくてもいいんだよっ! なぁ、早く」  耐えきれずに自分から尻の穴を広げた。一瞬、哲郎は戸惑う表情を見せたが、すぐに自分のズボンとパンツを一気に降ろす。ブルンと勢いよく飛び出たペニス。哲郎が今まで必死に抑えていた欲を表しているかのようだった。 「優しくしたいのに、そんなのされたら無理だろ」 「優しくなんかしなくていい」 「嫌だね」  両脚を掴まれるとそのまま大きく広げられた。そして熱い先端があてがわれると環の胎内を一気に割り入って侵入してくる。 「あっ、ああっ、てつ……てつろぉ」 「……たまき」  手を伸ばす。哲郎の上体がゆっくりと倒れ込んで環に覆いかぶさる。そして抱きしめられて二人の結合がより深くなった。腸壁をグリッと圧迫されただけで言いようのない切なさに息が詰まる。 「たまき、たまき」  うわ言のように名前を呼ばれる。なんで答えていいかも分からずにただ抱きしめ返した。段々と激しくなる律動。 「すきだよ、たまき」  天と地も分からないくらいに四方八方から快楽の波が迫る。揉みくちゃになりながら目の前にいる哲郎に必死にしがみつくことしか出来ない。 「あっ……やばいっ、てつろ、くる」  激しいピストンにあっと言う間に上り詰めていく。ウッと哲郎が呻くと腹の中に温かな感覚が広がった。哲郎が達したことも上手く理解出来ず、放心状態で天井を見上げることしか出来なかった。 「やっちまったな」  後処理を終えてもボーッとしている環に哲郎が気まずそうに声をかける。 「ごめん」 「なんで謝るんだよ」 「もう少し、こう……段階を踏んで、ちゃんとしたかった」  誘ったのは環からだというのに哲郎はこの世の終わりのような表情でひたすらに謝ってきた。ローションを用意していなかったり、切羽詰まった表情が本当に環の体目当てではなかったのだと物語っている。 「俺が誘ったんだから、自分のせいみたいな顔しないで」  とっくに酔いは覚めていた。寒くて身震いしていると遠慮がちに哲郎がベットの中に潜り込んでくる。 「なぁ、環」 「……何?」 「しばらく俺のところにいてよ」  雨は止んでいた。窓の外、雲の隙間から星が顔を出している。それもすぐに灰色の雲が流れてきて隠してしまった。月も雲に隠れている。きっと明日もどんよりとした空模様だろう。 「深く考えなくていいよ。遊びでもいいし、次にできる彼氏までの繋ぎでいいから。今は俺にした方がいい」  哲郎がどんな顔をしているかなんて見れるはずもない。代わりにギュッと手を握った。哲郎もそれっきり何も話さない。  やがてくる睡魔に身を委ねた。環のセミロングの髪を哲郎の指がそっと触れる。その指先は微かに震えていた。
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